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聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
ヴルカン公爵領編
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第47話 シェリルの祖父母の家(1)

 テシオに浄化石と、樽いっぱいの水を渡した。そしてヴルカン領にある公爵邸と、中央都市ミネラウパにある公爵邸を繋ぐ転移装置で移動させることにした。この転移装置は魔法を記憶できる結晶石を使用したもので、過去の遺産だ。4大公爵邸にのみあるもので、これを使えば一瞬でミネラウパへと移動できる。

 一度使うと次に使えるまで5日ほど置かなければいけないのが欠点だが、安定して移動できるし、当然の事だが早くて安全だ。アーマンディとシェリルもこれを使ってヴルカン公爵領にきた。


「姉さん!じゃなくアーマンディ様、絶対に来てね!俺ら家族はずっと待ってるから!」

 テシオが転移する直前に言った言葉が今もアーマンディの耳に残っている。


 そして現在、アーマンディはシェリルと共にギネに乗り、ヴルカン公爵領第2の都市レグルスに行くために空を駆けている。これはシェリルが出かけようとしている事を察したギネがベランダにやって来て、どこかに出かけるなら自分に乗って行けと駄々をこねたからだ。


「申し訳ありません。アーマンディ様、ギネは本当に甘えっ子で……」 

「良いんです。僕もシェリル様のお祖父様とお婆様にお会いしたかったですし、それにルーベンス様にも男性らしくないと……言われてしまいましたし……」

 段々と声が小さくなっていく、アーマンディは自分が着ている服を見る。

 アーマンディの今の服装はゆったりとした薄桃色のワンピースだ。裾には繊細な小花の刺繍が施されている。初めは男性用の服を着ていたのだが、それを見たルーベンスが壊れたおもちゃのように首を振ったのだ。どこから見ても、良いところのお嬢様が男装してる風に見えて目立つから良くないと。


「申し訳ありません……ですがルーベンスの言うことも一理ありましたので……」

 男性の衣装を着たアーマンディを見た時に、実はシェリルもそう思った。あからさまに無理がある。止めるべきだとも思ったが嬉しそうな表情のアーマンディを見ていると言えるものではなかった。そう言う意味ではルーベンスの忠告は心の底から感謝した。


「良いんです……もっと男らしい動きができるように頑張ります。それよりもこのままギネで行っても大丈夫ですか?」

「ええ、そこは大丈夫です。母の実家には屋上があるので、いつもそこへ着陸します。ただどうしても目立ってしまうので、アーマンディ様は私の従姉妹の振りをして街を散策しましょう。私は良く祖父母の家に遊びに行くので、街の人間も慣れています」 

「分かりました。だから黒髪なんですね」

 アーマンディは魔法で黒髪、薄桃色の瞳になっている。いつもと違う自分はとても新鮮で、不思議な感じがしてワクワクする気持ちが抑えきれないようだ。


「あなたのことは……そうですね。アーマンディを略してアディと呼んでも良いですか?」 

「はい!よろしくお願いします!」

「従姉妹で敬語は変ですからやめてください。祖父母にはアーマンディ様として紹介しても良いですか?」

「もちろんです!」

 

 いつもより返事が明るい……シェリルは表情には出さず心の中でほくそ笑む。いつもと違う黒髪が良いのか、それとも市井に赴くのが楽しいのか、家族との蟠りが誤解だったと分かったのが嬉しいのか、どれかは分からないが良い傾向だと思わずにいられない。


 そんなアーマンディはギネの首をそっと撫で、ぽつりと独り言のように呟いた。 

「聖女の館にギネを連れて行けないんでしょうか?」 

「そうですね。聖女の館にも屋上はありますし、大神官に聞けば方法があるかも知れません。帰ったら聞いてみましょうか」 

「ええ!ぜひ‼︎」


 ギネが嬉しそうに一声鳴いたところで、レグルスの街並みが見えた。




 ◇◇◇



 ヴルカン公爵邸がある領地とは違い、レグルスは商業都市としての色合いが強い。空から見た街並みは、真ん中にある広場を中心として、四方に広い通りがあり、家々が立ち並んでいる。ぐるりと円状に囲まれた高い壁に立つ兵士に、シェリルは手を振り、街の中心に向かう。

 シェリルの母方の祖父母の家はレグルスでも一際目立つ、オレンジ色の屋根を持つ大きな邸宅で、大通りに面している。下で騒ぐ人々を気にせずに、ギネはその屋上に慣れた様子でふわりと降りた。

 先に降りたシェリルに支えられながらアーマンディが降りると、赤みがかった黒髪をもつ老人と、焦茶の髪の老婆が屋上に続く扉から現れた。

 ゆっくりと余裕の態度で近づいてきた老人は、年齢に相応しい鋭い瞳を持ちながら緩やかに笑った。

「シェリル、聖女の騎士の就任おめでとう」


 その横にいる老婆は、ふくよかな体型で柔和な笑みを浮かべる。 

「あのやんちゃばかりしていたシェリルが聖女の騎士だなんて、年はとりたくないものね。今日は休暇を頂いたの?」


 ヴルカン公爵家とは違うふたりの穏やかな雰囲気に、アーマンディも自然と緩やかに微笑んでしまう。


「こちらはどなた?なんとも美しい女性だが?」

 

 聞いてくる祖父は、誰かを分かっているのだろうとシェリルは思う。このレグルスで一番の商人であり、ブルカン公爵領でも一、二を争う資産家だ。観察眼は伊達ではない。


「アーマンディ……ウンディーネよ。シェリルの祖父母に会えて嬉しいわ」

 

 苗字(ウンディーネ)を名乗るアーマンディは晴れやかな顔をしている。その姿はいつもより親しみやすく、美しい。

 そして予測していた祖父はともかく、祖母は「まぁ」と言いながらその丸い目を大きく見開いた。

「光の波を召喚し、我らを導いてくださる美しきアーマンディ様……とご挨拶すべきかな?」

 

 チラリとシェリルを見る祖父を、さすがだと思いシェリルはその口を開く。

「今日の名前はアディです。私の従姉妹です」

「そうか、そういことなら……アディ様、私はロッシュと申します。苗字はアヒレスです」

「お会いできて光栄ですわ。アディ様、私はシェリルの祖母ヴァネッサですわ」


 すぐに応用が効くふたりをシェリルは誇らしく思い、アーマンディはふたりの態度を嬉しく思った。

 堅苦しい挨拶は距離を置かれているようで実は苦手だ。ましてや今日の自分はいつもと違う姿だから尚更だ。ずっとアディでいたいとも思ってしまう。


「ところで今日はアディと街の探索をしたいのですが……」

 シェリルの言葉にロッシュは顎を掴み、渋面になる。 

「ふむ、シェリルが聖女の騎士になったことは、誰でも知っていることだ。そしてギネのこともね。そのシェリルがこれだけ美しい人とともに街を歩けば、いくら変装していてもアーマンディ様だと皆は思うだろう。市井に出るのは無理がある」 

「やはりそうですか……ですがどうしてもギネが一緒に出かけると聞かなくて……」


 キュルルルと反省する声を出しつつも、ギネはシェリルから離れようとしない。今だってその長い首をシェリルの肩にかけ、顔色を伺うようにじっと顔を見てる。


「ギネちゃんはシェリルが大好きだものね」

 ヴァネッサはふっくらとした手を口元に当てコロコロと笑い、その柔らかな眼差しをアーマンディに向ける。するとシュンとした様子のアーマンディが声を出す。

「やはりわたくしが外に出るのは厳しいですか?」

 アーマンディが更に眉を下げるを見て、ヴァネッサは「あらあら」と声をかける。

「アディ様はお外をご覧になりたいの?」

「ええ、わたくしは外の世界を見たことがなくて……だから普通の人々の生活を肌で感じたかったの」

「まぁまぁ、なんて素敵なことなのかしら!アーマンディ様の光の波はありがたいことに私も頂きましたの。お陰様で腰痛も改善、以前より元気になりましたわ。ですからお会いできる機会に恵まれたら、できる限りのことはしようと思っておりましたの。それなのにこんな素敵な方だなんて!どうしましょう。できればご希望を叶えて差し上げたいわ」

「おばあさま……」

 ぐいぐいとアーマンディに迫るヴァネッサをシェリルは諌める。明るい祖母のことは好きだが、アーマンディはこの積極さには慣れないはずだ。


「アディ様、申し訳ありません。妻に悪気はないのです」

「ええ、分かっています」

 ニコリと微笑むアーマンディはヴァネッサの言葉全てが嬉しい。


「腰痛が治ったの?しかも元気になってくれたなら、とても嬉しいわ」 

「ええ、夫も膝が悪かったんですけど、今では元気に歩けるようになって、旅行に行こうかと話題が出るようになったんです!あら、立ち話もなんですわね。シェリルが来ると聞いたので、恥ずかしながら手作りのお菓子を用意したんです。お口に合うか解らないのですが、宜しければいかがですか?」

「ええ、頂くわ。シェリルの好きなものかしら?」

「シェリルの好物は、私の作るグラタンですの。今日のお昼に作ろうと思っておりますわ」

「まぁ、そうなの?その……わたくしにも……頂けるかしら?」

「召し上がって頂けるなんて、光栄ですわ!よろしければ一緒に作りますか?」


 調子に乗ったヴァネッサに驚いたのはシェリルとロッシュだ。特にロッシュは流石にそれはまずいと真っ青だ。だが、アーマンディは満面の笑顔で「ぜひ!」と答え、そのまま手に手をとって屋敷へ入っていく。


「さすが……お祖母様……」

「良いのか?」

「そうですね……、まぁ楽しそうなので」

 シェリルの複雑な表情を見て、祖父はフッと笑みを漏らした。

毎日12時に投稿します。

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