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聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
ヴルカン公爵領編
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第46話 シェリルの部屋

 ミルバにテシオを客間へと案内するように命じ、シェリルはアーマンディを自室へと誘った。今後のことを話し合うためだ。


 シェリルの自室は二間続きになっていて、寝室とリビングに分かれている。リビングの中央には柔らかい色合いの薔薇をモチーフとしたソファセット。そして窓の近くには高級木材であるウォルナットで造られた机。壁一面の書棚には、本がぎっしり詰まっている。毛足の長いカーペットは柔らかな薄桃色で、壁紙の色とよく似ている。思ったよりも女性らしい部屋に、アーマンディはキョロキョロと目だけを動かす。


「ソファへどうぞ。お茶を淹れます」

「あ……僕が――」

「たまには私に淹れされてください。そもそもあなたが淹れる必要はないのですよ?」

 アーマンディは軽く笑って、体が沈み込むようなソファへと座る。目の前のテーブルは光沢のある白い大理石、その先にある少し高めのテーブルでシェリルは紅茶を淹れている。


 お茶を淹れたいと思ったのはいつからだろう。聖女の館で自室を持って初めて、シェリルが紅茶を淹れてくれた時に、その姿に見惚れた覚えがある。あの時に自分もやってみたいと思ったんだと、アーマンディは思い至る。

 そしてやはりシェリルがお茶を淹れる姿は美しい。ティポットに茶葉を入れ、魔法で沸かしたお湯を注ぐ姿に見惚れてしまう。

 黒々とした艶めく長い睫毛が血のように赤い瞳を隠す。その美しい姿を余す事なくいつまでも見ていたいとまで思ってしまう。衝動のままじっと見つめていると、鋭い瞳がアーマンディの瞳を射抜く。


「何か?」

「――っ、な、なんでもありません!」 

 上擦った声を自覚しながら、アーマンディは顔を両手で覆う。しかもタイミングが悪い事に先ほどシェリルに抱き寄せられたことを思い出してしまった。シェリルは全く興味がないかも知れないが、自分は男なのに! 

 聖女の館で、ガーネットが折を見ては触れようとするのが苦手だった。給仕係のねっとりした視線には、どれだけ寒気がしたか。持って来た服を無理矢理着せようとする女性もいた。実は襲われそうになったこともある。幸いなことにアジタートが来て未遂に終わった。

 女性に触られるのが嫌で仕方ないのは事実だ。ミルバやマーシーは優しくて大丈夫だとは分かっているが、やはり近くに来られると悪寒が走る。だからいつも自分で着替えている。それが貴族として、聖女として、間違いだと言われても先天的に植え付けられた恐怖は変えられない。

 だけどシェリルはどういうわけか初めから大丈夫だった。ダンスではあれだけ密着していたのに、なんとも思わなかった。

 そして今だって……彼女に触れたいとすら思っている。

 自分の考えに気付いてアーマンディは首を振る。

 触れる?何を考えているのだろう!自分は男で彼女は女性だ!しかも美しく身分のあるしっかりした女性……本来であれば彼女の部屋に一緒にいることすら許されない筈なのに‼︎


「アーマンディ様はたまに顔が真っ赤になる時がありますね。肌が白いからでしょうか?とても目立ちます」

「…………え?」

 引きつく声を自覚しながらアーマンディは手で顔を隠す。シェリルは慣れた手つきでアーマンディの前にティカップを置き、心得たように笑みを漏らす。

 

「今回ばかりは気持ちが分かります。嬉しくて興奮してしまったのですね?テシオはふざけた奴でしたが、ウンディーネ公爵家の話は真実味があった。ご家族に会える日も近いかもしれませんね」 

「え……あ、そ、そうですね」

 すっかり忘れていたとは言えず、アーマンディは誤魔化すように笑う。家族との誤解が解ける可能性よりも、シェリルの行動に見惚れてしまった自分を、随分と薄情だと思いながら。


「ところでテシオが持ってきた浄化石ですが、あなたは驚いた様子がなかったですね。そういえば私の浄化石にも反応がなかった。見覚えが?」

「ええ、テシオ様が持ってきた浄化石は、僕の元に定期的にきていた浄化石でした。中々浄化できないし、あのサイズはあれだけなので良く覚えています」

「定期的に?それはおかしいですね。アーマンディ様はご存知ないと思いますが、浄化石は魔塔で作り出しますが、浄化石の管理は大聖堂を主とする教会の管轄です。浄化石は小さくてもとても高価なものですし、私の浄化石のように先祖代々受け継いているものもあります。それに誰しもに欠かせないものでもあるので、持ち主に正確に紐づけられています」

「どうやってですか?浄化石には何も書かれていないですよね?」

「一見すると書かれていませんが、特殊な光を当てると浮かび上がってきます。そして教会で浄化石の持ち主が誰で、何回浄化されたかなど事細かに記録しています」

「そうだったんですね。ではテシオ様が持ってきた浄化石も、同じような経緯で僕の元にきていたんでしょうか」

「問題はそこです。私はこの浄化石を引き継いで約5年ほど経ちます。そしてその間、自慢ではありませんが多くの魔物を退治してきました。ですが一度も浄化を依頼したことなどありませんよ」

「え?でもテシオ様が持ってきた浄化石は、6ヶ月に一度は来ていましたよ」

「6カ月に一度?それは多すぎですね。ウンディーネ公爵領にそれほど魔物が多いとは聞いていません。仮にあの浄化石のサイズで6か月に一度浄化するのであれば異常事態です。まだまだ何かありそうですね……」


 訝しみながらシェリルは紅茶を口につける。落ち着いて考えることが必要だ。テシオのふざけた態度は何かを誤魔化すフリだったとしても、メイリーンの現状を訴える表情は真に迫っていた。あれが演技でできるとは思えない。


 アーマンディも紅茶を一口飲み、思いつくままに話す。

「メイリーン様を治療することは……可能でしょうか?」

「……そうですね。聞く限りでは遺伝病のようです。今のアーマンディ様には難しいでしょう。ですが私はジェシカ様が起こす数々の奇跡を見てきました。つまりジェシカ様よりスピカ神の力を使う術を学べば、治療できる可能性はあります」

「そうなんですね!」

「ええ、あなたが、あなたの大事な侍女(ネリー)に光を届けることができた時、可能性は高くなるでしょう」

「ネリーに⁉︎」

 

 そんな奇跡を何度願ったことだろうと、アーマンディは目を輝かせる。スピカ神に願ったこと。だけどそれは叶えてもらえなかった。自分で治すことができるから叶えてもらえなかったのだろうかとすら思えてくる。

 

「僕……がんばります、ジェシカ様はいつお見えになりますか?」

「3日後には到着すると連絡がありました。ジェシカ様にはアーマンディ様はアジタートより聖女の御技を教わっていないとだけお話ししております。他はあなたの判断でお話しください」 

「あ……分かりました。その……例えばずっと女性だと偽っていても、気付かれないでしょうか?」

「そうですね、あれだけ観察するように見ていたテシオも気がつきませんでしたし、ルーベンスも言われなければ分からないと言っています。それは母も同じです。ですから気付かれない可能性は高いです」

「そう……ですか……」

 例えば男と言って、幻滅される位ならこのまま女性と偽るのもありではないだろうかと、アーマンディは考える。なぜならルージュの例がある。また、拒絶されるのはとても辛い。


「ところで明日ですが、テシオに浄化石とあなたの水を渡した後に、私と出かけませんか?」

「出かける……ですか?どこに?」

「ここから東に向かったところに、ヴルカン公爵領第2の都市レグルスがあります。そこで母方の祖父母が商売を営んでおります。もし良ければ一緒に行きませんか?あなたの普段着を選びたいのです」

「僕はもう十分に服はもらっています。ですが、その……」

 

 言い淀んだアーマンディにシェリルは首を傾げる。洋服を断られることは想定していた。だが続く言葉は想定外だ。


「そこに行けば街ゆく人々を見れたりしますか?僕は普通の人々の生活が見てみたいんですが……」

「そう……ですね。そういう事であれば、祖父母の家があるレグルスではなく、デネボラにしましょうか。私は良く変装して降りていくんですが、思ったよりもバレないものです。アーマンディ様も髪色と目色を変えて……そうですね、例えば男性の服を着れば、まず気付かれないでしょう」

「男性の服……ですか?」

「ええ、それとも女性の服にしますか?どちらにしろ私の服を貸しますよ」

「あ……では、男性の服……で」

「……分かりました」


 やはり男性の服を選んだかと思いながら、シェリルはアーマンディを見る。アーマンディは嬉しそうだ。それが街を見られるからか、それとも男性の服を着られるからかは分からない。だけど自分の意見を言い出すのは良い傾向だ。そう思いながら。

毎日12時に投稿します。

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