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聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
聖女の館編
25/204

第25話 アーマンディの部屋(2)

 聖女の館は5階建てだ。

 スピカ公国は5の数字を好む傾向がある。建国王であるザヴィヤヴァの子供が5人で、5つの地域に分かれてこの国を治めたことから、5の数字が縁起が良いと言われている。またこの世界では大分類として魔法の属性は5つだ。

 そう言った所から縁起の良い5階建ての建物は多い。聖女の館もそれに倣って5階建てだ。そしてやはり上階になるほど上位の人間が住む。

 正面門が東にある聖女の館は長方形の建物で、そう言った意味では常に太陽が当たる東南の部屋が一番上位の部屋になると思われる。だが、アリアンナは反対側の北に向かう。


「母上?あちらの豪華な部屋ではないということですか?」

 シェリルが指差す廊下の先には、両開きの豪華な扉がある。眩しいほど白い扉には美しい女神の姿が描かれている。


「あんなあからさまな部屋なわけがないでしょう?この建物を最初に使われたのはウンディーネ様よ、ウンディーネ様は過酷な地域へ自ら赴かれたお優しいお方よ?そんなお方があんな、これみよがしな豪華な部屋を、お使いになるわけがないでしょう。あれは客間よ。アジタートであれば、あの部屋を使っているだろうって、義理母様が仰っていたわ」


 確かにあちらの部屋には人が使っていた気配がする。そして母が案内した北東の部屋には何も感じない。

 そう思いながら、シェリルは母が前に立つ扉を開けようとする。有事があったことを考え、扉を先に開けて確認するのは騎士の仕事だ。だが、鍵がかかっているようにドアノブは動かない。


「母上も人が悪い……鍵がかかってますね」

 シェリルがため息混じりに睨むと、アリアンナは得心したように微笑み、アーマンディに視線を向ける。


「アーマンディ様……お願い致します」


 告げられたアーマンディは意味が分からず、目を瞬く。シェリルも不審な顔をする。


「大丈夫ですわ……アーマンディ様でしたら」


 アリアンナが更に促すので、アーマンディはドアノブに手をかける。すると鍵などかかっていないようにすんなり開いた。


「え?なぜ?」

 シェリルは驚いて声を上げるがアーマンディにも分からない。鍵はかかっていなかった……そうとしかアーマンディには思えない。

 

 扉の先はシンプルな部屋だった。豪華とは程遠い部屋。向かって左側には明るい色の木のベットと、同じ色合いのテーブルと椅子のセット。だが端々に見せる彫刻の美しさで高級品だと判る。反対の右側にはクローゼット。中央には柔らかい太陽の日差しのような色をした猫足のソファセット。


「なんというかシンプルな部屋ですね……」

 シェリルが一歩足を踏み入れると、何かの気配を感じた。魔法が発動する気配だ。


「……アーマンディ様、お入りください」

 状況が分かっているかのようにアリアンナがアーマンディを促し、促されるまま入るアーマンディをシェリルが手を差しのべ、エスコートする。


 すると部屋に光が満ち、暖かい空気が部屋を包む。更にかぐわしい芳香が部屋に充満する。


「スピカ神に選ばれし聖女様のみが使えるお部屋ですわ。有事の際はこちらに。いらっしゃる間は悪意のある人間は入れないそうですわ」

「そう……なんですね。そんなすごいお部屋を、わたくしなどが使っても良いのでしょうか?」

「アーマンディ様は部屋に受け入れられている感じがしませんか?」


 アリアンナの言葉には納得するしかない。なぜならアーマンディには分かったからだ。この部屋が自分を受け入れてくれたことが。自分を待っていてくれたことが。


「確かに、アーマンディ様が入ったと同時に空気が変わりました。アーマンディ様がいらっしゃらなければ、この部屋には入れないのでしょうか?」

「アーマンディ様が心を許した相手であれば、自然と部屋も受け入れてくれるらしいわ。不思議よね」

「良かった……じゃあネリーも、大丈夫ですね」

「……そうですね」


 シェリルは、私は?と聞きたいとは思うがそこは我慢した。もう3日、まだ3日だ。これから信頼をもっと深めていけば良い、そう思いながら部屋の窓を開けると、そこには美しい空が見えた。そういえば外を見たのも3日振りだ。あの薄暗い地下室とは、おさらばだと思うと、少し心も軽くなる。


「シェリル様のお部屋はどこですか?」


 アーマンディの質問に、アリアンナは隣の部屋だと答えている。

 アーマンディはあんな見た目でも一応男だ。気を使ってくれているのは分かるが少し寂しいと、シェリルは思ったが気を取り直して、ふたりに近づく。


「この部屋であれば確かに安全ですね。隣の部屋が私の部屋という事は、続き間になっていますか?見る限り、クローゼットと浴室の扉しかありませんが?」

「聖女と聖女の騎士を繋ぐ部屋は、クローゼットの中で隠し扉になっていると聞いたわ。そうね……アーマンディ様もシェリルも一緒にクローゼットへ来てくれる?」


 アリアンナに連れられ、クローゼットに入るとかなり大きな空間だ。何も入っていないクローゼットを、アリアンナはいっぱいにしてやると興奮気味だ。

 そしてそのまま左端に行き、足元を指差した。


「シェリル、そこを開けて」

「開ける?」

 母の言葉に訝しみながらシェリルが床を探ると、魔法陣が浮かび上がり、ぽっかり開いた穴と、そこからぶら下がる梯子が現れた。


「これは避難路。このまま地下に繋がって各公爵家に行けるらしいわ。アーマンディ様、わたくしたちの邸宅は南です。南に向かって来てください」

「南ですね………梯子が南を向いて降りる形ですから、地面に降りたら真っ直ぐ行けば良いわけですね」

「その通りです。距離はかなりありますが、万が一、有事の際にはこちらに」

 アーマンディは頷き、シェリルは梯子の奥を覗く。


 奥には暗い闇が広がりばかりだ。5階建の建物の地下ということは、かなりの距離を降ることになるのだろう。更に聖なる気配に満ちている。魔力の弱いアリアンナは気付かないだろうが、魔力の強い人間は入ることも厳しそうだ。シェリルがそう思いながら、いつまでも先を見ていると、アリアンナはクローゼットの真ん中を指差す。


「そしてここが隠し扉」

 何もなく見える壁に手を当てると、溶けるように壁が消えた。

 するとその先に広がるのは、アーマンディの部屋と対になっているような部屋だった。


「これが私の部屋ですね」

 部屋に入ると、やはり魔法の気配がした。気力がみなぎるような気がして、シェリルは母を見る。


「義理母様が仰っていたわ。こちらは選ばれた聖女に仕える騎士の為の部屋だって。どう?悪くないでしょう?」

「確かに――素晴らしい仕掛けですね」

 

 シェリルが部屋を見回しているとアリアンナに続いて、アーマンディも入ってくる。


「ちょうどわたくしの部屋と正反対ですね。家具もお揃いのようです。わたくしの部屋はあのままで十分ですわ。シェリル様はどうしますか?」

「いえ?私もこれで良いと思います」


 自然な会話を交わすふたりを見守るアリアンナは、扇子で顔を隠し微笑む。これは夫に良い報告ができると分かると、早く帰りたいとすら思える。


「家具はこのままで良いのですね?では、わたくしはお布団とお洋服を用意すれば良いわね。ああ、あとはカーペットね。毛足の長い物を用意しましょう。目の見えない子供がいるのなら、柔らかい絨毯が必要でしょうし……」

「そうですね。他に必要なものは……」

 シェリルがアリアンナと打ち合わせを始めたのを見て、邪魔をしないようにアーマンディはふたりから離れ、自分の部屋に戻る。

 

 大きな窓から見える景色は美しい。そのままバスルームに向かうと、もう一つ扉があり、その奥に大きな浴室が見えた。


「随分と贅沢だ……」

 ポツリと漏らしたと同時に、ついつい笑顔になってしまった自分の頬を軽くつねる。


「ふふ……夢じゃないみたい」

 さっきまでは暗い地下室にいた。だけどこれからはここが自分達の部屋になる。破格の待遇についつい顔が緩んでしまう。


「シェリル様が来てから良いことばかりだ」

 心の底からそう思えるほど、シェリルに感謝する自分がいる。


「男なのに聖女の力を持ってしまって産まれて、後悔ばかりだったけど………産まれて来てよかった」

 これでいつでも悔いなく死ねる。

 アーマンディの気持ちは変わらない。

 自分に幸せが続くわけがない、いつもそう思っているから。

毎日12時に投稿します。

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