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聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
公国王選挙編
112/204

第112話 ルーベンス到着&公国王フェランの策略(1)

どうしてこんなに兄や姉に振り回されるのだろうと思いながら、ルーベンスは聖女の館の門をくぐる。


聖女の館に入るには、公国王もしくは大神官の許可印が必要で、ルーベンスは大神官の許可を得て来ることになった。大神官様の憐れむような瞳を思い出すと、ルーベンスは居た堪れない気持ちになっていく。


茶色がかった黒色の長い髪のウィッグは母が用意した。今回はネリーの代理の設定で来たからメイド服だ。聖女の館に使える人間は基本的に生成色に赤い模様のデザインの衣装を身に纏う。鏡でそれらを装備した自分を見て、少し涙が出た。ちなみに母親のアリアンナは後ろでルーベンスを指さして笑っていた。いつも温厚な兄は目には憐れみと涙を、口元には必死に堪える笑みを見せながら、「頑張れ」と一言だけ言ってくれた。


ため息と共に聖女の館の扉をノックすると、顔馴染みのメイドが出た。母上に仕えていたメイドだ……そう思った。


「いらっしゃい、ルリー。待っていたわ」


にっこりと笑ったメイドの目に同情の色が映ったことなど、見れば分かる。ルーベンスはもうすぐ14歳。女装をするには無理がある。そんなことは誰でもなく、自分が一番良く知っている。


アーマンディを頂点に置く聖女の館に人が少ないことはルーベンスも聞いていた。その為人手が足りないことも。だが掃除は行き届いているし、備えも万全ではないかと観察しながら静々とメイドの後ろを歩いていくと、聞き覚えのある笑い声が聞こえた。


「る――ルリーか!久しぶりだな……」

言葉の後に、含み笑いが聞こえたのをルーベンスは聞き逃さなかった。おそらく孫が女装をしているのがおかしくて仕方ないのだろう。


「お久しぶりでございます。ノワール様」

ルーベンスが旅行鞄を両手で前に持ったまま、女性らしく深くお辞儀をすると、どうやら我慢できなかったようだ。ノワールは涙を流して笑い出した。


「――っつ……何がおかしいですか?」


「くくく……ああ、いやいや、さぁ、荷物を持ってやるから、来い。アーマンディ様にご挨拶をするぞ?」


「……はい」


そのままノワールの後ろを歩き5階に行くと、北東の部屋の前に来た。中にはアーマンディの気配がする。


「さぁ……お前は入れるかな?」


ニヤリと笑うノワールの魂胆など、ルーベンスはお見通しだ。アーマンディの部屋は選ばれた聖女の部屋。その部屋には聖女が認めたものしか入れないという。ルーベンスはアーマンディの願いでやってきた。開けれないはずがない。


えいっと力を込めてドアを開けると、キョトンとしたアーマンディと目が合った。


「あ……アディ兄!」

嬉しくて声を上げたと同時に、ゴツンとノワールに頭を殴られる。


「――――っつう……痛い、お祖母様……なんで?」


「お前……聖女の部屋にノックもなしで入るのか?」


ノワールだってノックをしないのに……とアーマンディとルーベンスは思ったが、言っても無駄なことは分かっている。ルーベンスは間抜けにも、扉を閉めてノックをし、アーマンディは楽しくてクスクス笑いながら「どうぞ」と声をかけた。


そしてルーベンスが部屋に入ると、ノワールは部屋に入らず、手を振って廊下を去っていった。どうもこの後ふたりでやることに関わりたくないようだ。


「ルーベンスにまた会えて嬉しいよ」


「俺もアディ兄と一緒にいられることになって嬉しいよ。シェリル姉は公国王のところだって?」


「そうなんだよ、昨日もあまり寝ていないって言うから、帰ってすぐに無理やり寝かしつけたんだけど、『あなたの前では眠れません』って怒って早々にどこかに行っちゃたんだよ……僕は心配しているのに」


「う―ん、女性は寝顔を見られるのは嫌うって聞いてるよ?ましてやシェリル姉は聖女の騎士だから、アディ兄の前で寝るなんてできないんじゃないかな?だって寝るって一番無防備になっちゃうし……」


「そう……なんだ。じゃあ僕がいない方が良かったかな?」


「アディ兄がいないと仕事してたんじゃないかな?俺を頼るくらいだから、仕事が溜まってるんだと思う」


「僕も手伝いたいんだけど……シェリルは教えてくれるって言ってるんだけど……」


「ああ、じゃあ一緒にやろうよ!俺も全部できるわけじゃないけど多分シェリル姉より上手く教えられると思うよ」


「そうなの?」

「うん、シェリル姉は大雑把でどんぶり勘定だから」


ププっとルーベンスが笑うとアーマンディも釣られて笑ってしまう。


そしてふたりはシェリルの部屋に向かう。シェリルの負担を減らすために。




◇◇◇




背中に悪寒を感じ、シェリルはふと視線を聖女の館に向ける。なんだかルーベンスとアーマンディが自分の悪口を言っている気がすると思いながら。


今朝は予定外の帰宅となったが、シェリルにとっては問題はなかった。ルーベンスが来ることで仕事の目処もついた。では久しぶりに体を動かそうかと思っていたら、アーマンディに無理やりベッドへと誘われた。それが色めいた理由でもなんでもなく、ただ眠るだけだということに驚いた。


人が生きている時間は有限だ。できるなら睡眠時間を削ってでもやりたいことがあるシェリルには、寝ろと懇願するアーマンディが全く理解できなかった。あげく、子供をあやすように子守唄まで歌い出したから堪らない。


頭に来たので部屋を飛び出し、そのままミルバの部屋で仕事をした。執事がいない聖女の館では、ミルバが代理として書類の整理だけはしてくれている。だからシェリルの所に来る前の書類が溜まっているのだ。


それを片付けて、シェリルは今、公国王城にいる。


聖女の館、大聖堂、そして公国王城はすべて白を基調としている。

神の権威を表すように荘厳に建てられた大聖堂。女性らしく清廉とした聖女の館。そして人々の羨望の眼差しを集める壮麗な公国王城。


スピカ公国のこれらの建物はどの国の建物よりも美しいと言っていたのは祖母だ。シェリルもそう思う。日の光を浴びて輝く姿は、確かに美しく見惚れてしまう。


シェリルは大きな広間を抜け、上階へと上がっていく。今日の公国王フェランとの打ち合わせは3階で行われる。


聖女の騎士としてシェリルはひとりでここに来た。皆がシェリルの姿を見つけては端により、止まって深くお辞儀をして通り過ぎるのを待っている。その中に誰もが見惚れるような見事な銀髪の男性が目についた。


まだ時間はある。シェリルは手を振って男の元へと向かう


「カイゼル……久しぶりだな」

「お久しぶりです。シェリル・ヴルカン様、今日は公国王選挙時の代理での打ち合わせですね」


「ああ、良く知っているな」


「私は公国王のスケジュールの管理もしていますから」


「そう……か。事務仕事を主にしていると聞いていたが、公国王の秘書の仕事をしていたのか……」


「ええ、ですから何なりとお尋ねください」


「……そうか」


どこか違和感がある……とは思うが、先に話をすべきことがシェリルにはある。まずはそれを優先させることにした。


「ところで……聖女の館で執事を探している。誰か適任者を知っているか?」


シェリルは大勢いる人の前でわざとカイゼルに適任者がいるか聞く。そうする事でウンディーネ公爵家とアーマンディの仲が順調で、更にヴルカン公爵家とも協調していると分からせるためだ。アーマンディがメイリーンの誕生日会に出席したことは誰しもが知っていることだ。だが、念には念が必要だ。順当な関係を見せつけるべきだと思っている。


それだけではない。アーマンディの次にメイリーンが聖女として立つことは決まっている。となると、執事としてウンディーネ公爵家の人間が来れば、そのままアーマンディからメイリーンへと聖女の館が引き継がれても、順調に運営が回せるとも思っている。そもそも今シェリルが困っているのも、引き継ぎがなく、過去の資料と照らし合わせながらやっているので、時間がかかっているからだ。


「そうですね……我が家の執事を覚えていらっしゃいますか?」


「ああ、たしか水色がかった銀髪の……」


アーマンディがウンディーネから怒って帰った際に、見送りはいらないと言ったにも関わらず見送りに来た執事。淡々と執務をこなす姿をシェリルは良く覚えている。


「彼の孫が執事として我が家で見習いをしています。中々優秀な女性ですのでいかがでしょうか?」


「ぜひ、紹介してくれ」


「では我が家にご招待申し上げます。ああ、それと今までは私が中央都市にいましたが、この度カエンがこちらに来る事になりました。カエンがシェリル様に会いたがっておりました。ぜひお声がけください」


カエン?と思ったがそこは飲み込むようにシェリルは柔らかく笑うことにした。どうやらカイゼルがここにいたのは偶然ではないようだ。思惑があって、わざとここにいたのだろう。シェリルが必ず話しかけるであろう事を狙って。


その証拠にカイゼルは深くお辞儀をする瞬間、シェリルにそっと声をかけてきた。


「カエンを利用してください……」


シェリルは誰にも見えないように、視線で了解したと返事をする。


どうやら公国王には思惑がありそうだ。油断してはいけないと思いながら。

毎日18時に投稿します。

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