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聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
公国王選挙編
110/204

第110話 グノーム公爵家(1)

アーマンディとシェリルは馬車に乗ってグノーム公爵家に向かう。

今日はシェリルの友人であるデルフィの小公爵祝いのための行幸だ。アーマンディは鮮やかな真紅のドレスを身に纏っている。シェリルの騎士服の色は黒だ。いつもは同じ色を纏うのに今日は違う色だと思うと、アーマンディは少し悲しくなる。


ネリーは朝一番で父親であるノヴァーリスの元へ行った。その表情は明るく、嬉しそうだった。それもアーマンディは複雑だ。やはり本当の父親が良いのかと思うと、心に風が吹くようだ。


「アーマンディ様、グノーム公爵家の情報をお話しします」


「はい。お願いします」

アーマンディは背筋を伸ばす。


「グノーム公爵家はここで代替わりしました。新しい公爵はアトス。妻である公爵夫人の名前はシャルロット。現公国王であるフェランはアトスの弟です」


「今日お会いするのは、アトス様とシャルロット様と、同じ様に代替わりし小公爵となったデルフィ様ですか?」


シェリルがその口元に怒りの笑みを漏らす。


「グノーム公爵家より届いた案内状にはそう書かれていました」


「……えっと、つまり実は違うということです……か?」


「ええ、デルフィの話ですと、当日に母のシャルロットが体調不良となり、息子のトゥールが代理として出席するそうですよ。スピカ公国での序列第4位の代理が、第5位……下位の者が上位の者の代理ができるわけがないでしょう。全くふざけた話です」


「なぜそこまでしてトゥール様を出席させたいのですか?」


シェリルの長い指が、アーマンディの眉間に刺さる。


「目的はあなたです!」

「僕……ですか?」


アーマンディは思い出す。そういえばシェリルの部屋で見た彼の釣書は、自分宛のものだったと。


「デルフィの話ですと、トゥールはあなたを一目見て、忘れられないだの……アーマンディ様と結婚できないなら生涯独身でいるだの(のたま)っていやがるそうですよ。その熱意にやられて両親が今回のお膳立てをしたそうです。全くモテる恋人を持つと大変です!」


「えっと、でも僕は男ですし……それに……」

「それに?」


「それに……シェリルが僕の恋人……ですし、が、頑張ってお断りします!」


「ではトゥールをシャルロットの代理で出すと言った時に、できるだけ冷やかに下位の者は上位の代理は不可だと言ってください。それがスピカ公国の公式ルールですから逆らえないはずです」


「分かりました」

アーマンディはコクコクと頷く。嫉妬で怒っているシェリルを嬉しく思いながら。


「そうなると対面はデルフィとアトスのみになりますね。アトスは一見すると温和でのんびりした人間に見えますが、実はそれら全てが計算されています。自分の見た目を把握した上で、相手を自分の思惑通りになるように動かすのが、戦略ですので惑わされないように。気がつけば自分に不利な条件で契約をしてしまったなどは良く聞く話です」


「不安になって来ました……僕は大丈夫でしょうか」


アーマンディは自分が政治に長けていなことは十分に把握している。そもそもその世界にいなかった上に、教育も受けてないから当然だ。


「聖女はスピカ公国第一位、アトスは今回の会談であなたを誘導できるかを試すつもりでしょう。それができないことを印象付けるために毅然とした態度で、しかも淡々とトゥールを断ってください。なんなら会談は中止して帰ると言っても良いです。ウンディーネ公爵家で最初にあなたが取った態度を思い出してください。あの調子でいけば問題ありません」


「わ……分かりました。つまりシェリルは、会話には参加してくれないのですね?」


「ええ、私はあなたの許可なく話すことはしません」


「頼っては……だめなんですね?」


「そうです。もし私が話せば、あなたがヴルカン公爵家の操り人形になっていると受け取られかねません。聖女として教育が十分にできていないと侮られることにもなります。そうなっては問題です。なるたけ話す前に頭で考えるようにしてください。すぐに返事をすれば考えなしと取られます。ですが考え過ぎても判断能力がないと思われます。慎重に……かつ素早くお願いします」


「そんな……む、難しいです……加減が分かりません」


「大丈夫ですよ。祖母やジェシカ様から色々学んでいるでしょう?私も折を見ては教えています。それらを思い出しながら会話をしてください。そして判断が難しいと思った場合には、持ち帰って検討すると言ってください」


「……分かりました」

とは言えど不安だと、アーマンディは視線を足下に向ける。


これが自分の仕事だとは聞いていた。そしてそれに十分値する給金をもらっている。だけど自分が望んだ仕事ではないことは確かだ。そうなると、やはりどうして自分がこんな苦労をしなくてはいけないのかと思ってしまう。


そんなアーマンディの不安を見抜いたのだろう。シェリルは不安を消し去るように笑う。


「大丈夫ですよ、今回は顔合わせが主ですし、それに私の友人のデルフィもいます。トゥールの件は彼女が先んじて教えてくれたのですよ。手紙には、聖女相手にふざけてると書いてました」


「そうなんですね、少し安心しました」


「デルフィにはアーマンディ様は純粋な方だから、(はかりごと)は苦手だと伝えました。彼女は世話好きです。助けてくれますよ……それに……」


「それに?」

少し言い淀むシェリルにアーマンディは、疑惑の視線を送る。これは何か隠し事がある時の顔だと思いながら。


「実は、私もこの間帰った時に兄に聞いたのですが……どうも兄とデルフィは思い合った仲だったらしく……」


「ええ⁉︎恋人同士だったということですか?」


「いえ、恋人までは言ってなかったそうです。兄は小公爵でしたし、デルフィは小公爵が内定していました。お互いが職務を優先して恋心に蓋をしていたそうです。小公爵は将来の公爵です。公爵同士が結婚などあり得ませんからね。ですがこの度、ルーベンスが騎士の資格を取りました。そこで兄が両親に相談したそうです。ルーベンスを小公爵とし、自分はグノームに養子として入りたいと……」


「だから――ルーベンスが中央都市に来たんですね!おめでとうございます」


「お互いに引き継ぎがあるのでまだ先の話です。そしてこの話はヴルカンでは共有していますが、グノームではデルフィしか知りません。今日のアーマンディ様との会談を経て、折を見て話すそうです」


「ご両親と仲が良くないのですか?」


「それは判断が難しいですね。デルフィが言うには両親は弟の方を可愛がっていて、自分は昔から放って置かれた、だから両親は自分に愛情も関心もないのだと言ってます。ですが私から見ると、昔からなんでも自分で判断して、決断していたデルフィを両親は身守ることにし、決断できず甘えっ子だったトゥールには手助けをしていたように見えます。ですがこれは私の見解です。実は両親はデルフィが言うようにトゥールのみが可愛いのかも知れません。もしくは私の見解通りかも知れません。それとも全く両親ともに考え方が違うのかも知れません。人の心を窺い知ることは中々に難しいものです」


「確かに……そうですね。現時点ではデルフィ様もご両親にレオニダス様のことを話していませんし」


「そうですね。私にはデルフィはどうせ両親は自分に関心がないから言っても無駄だと決めつけて、子供の様に意地を張っているように見えます。兄にそれを言ったら、そこが可愛いい所だよと言って当てつけられてしまいました。温和な兄と勝気なデルフィは、似合いかも知れませんね」


「お似合い……それは、羨ましいですね」


自分とシェリルを周りはどう思っているのだろうとアーマンディは思ったが、口に出すのはやめた。自分とシェリルの関係を知っている者は数少ない。それに、嫉妬深い自分がシェリルを困らせているのも判っている。子供のように頼り切っている自分が、足手纏いになっていることも知っている。


「話が逸れてしまいましたが、大丈夫でしょうか?もちろん、何かあれば私がお助けします。そこは大船に乗ったつもりで」


「はい、頑張りま……頑張るわ」


アーマンディはふわりと微笑む。皆に褒められた聖女の笑みだ。


「素晴らしいです。その聖女らしい微笑みと堂々とした態度でお願いします。そろそろグノーム公爵邸です」


シェリルがカーテンを少しだけ捲ると、そこには焦茶を基調とした壮麗な建物が見えた。

毎日18時に投稿します。

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