3.-待遇-
持たざる者への憐憫と持つ者への執着は、同量でなくとも膨大である。
天使。(II)類に分類される精霊種。召喚、または降臨を行わなければ邂逅できない存在。現世に跋扈する生物よりも強大な力を持ち、天使の中では下位だとしても人類にとっては相当な力である。と、されている。
・・・
アルフェリア
「私の待遇...ですか...。」
リサト
「そうだ。」
ミルダ
「・・・っていってもどーするのさ?」
リサト
「んでイツカ、どうすることにしたんだ。」
アカツキ
「結論としては...。」
・・・
ーーー ーーー ーーー
足跡を残す、重い足音がこちらへ向かってくる。
ラルド
「...誰だ。」
? ? ?
「政府の者がここに何の用だ。」
ラルド
「依頼だ。不審な者が彷徨いているとの情報が入ってな。」
? ? ?
「ほう...彷徨いている、と。」
妙な空気が漂う。
ラルド
「心当たりがありそうだな。」
空気が冷え始める。
? ? ?
「そちらから追放しておいて、なんの心遣いも無しとは。やはり政府は気に入らん。」
ラルド
「政府に恨みがあるなら私は見当違いだ。政府直属ではあるが、訴えかけるなら私ではない。」
? ? ?
「関係が薄いというのならば、手を差し伸べはしないのか。」
ラルド
「所属も分からぬ者に手を貸す義理はない。」
空気が更に冷える。水の粒の様な、ようやく肉眼で見える様な氷が形成されつつある。
? ? ?
「ふむ...なんとも安泰を重んじているな。その気を抱ける環境であれば心強くあるのだが。」
対して空気が熱される。
ラルド
「鎮めるには丁度いい機会だ。」
その刹那、空気が止まる。
風も、鳥の鳴き声すらも聞こえなくなる様な。
・・・
細身の刀身が抜かれる。鋭利な氷塊と共に走り出す。
風を切り、距離を詰める。
? ? ?
「・・・(思ったより速いな...)」
対して構えを取る。熱気を纏い、その刃に炎を灯す。
機敏に、しなやかに刃を流し、氷塊を砕く。
そして刃がぶつかる。鏗々たる音が響く間も無く、高温と低温が牽制し合う。
そしてその空気は平温に保たれる。
二度三度、剣戟は続く。して冷気は元の場所へ下げられる。
靴が土を引き摺る。
砂埃は戦況を読む様に風に乗って場外へと吹いてゆく。
? ? ?
「名は。」
ラルド
「そちらから名乗るべきでは?あくまでもこちらは公的な存在だ。」
? ? ?
「それはこちらもだ。しかし立場上君の方が上と捉えられるだろうな。・・・仕方ない。私から名乗ろう。」
静かに納剣する。
? ? ?
「私は雨金 律斗。リツト・アマガネと言った方が良いか。」
ラルド
「お気遣いをどうも。」
鎮まらぬ警戒を持ちながらも納剣する。
ラルド
「私はラルド・サーヴェナイ。聖銅連盟所属だ。」
互いに名乗りをあげる。女性同士であれど、その空気の重さは依然として重い。
リツト
「ラルド...覚えておこう。君たちが手を出さない限りこちらからも手を出すことはない。公の情報には気をつけろとだけ言っておこう。」
ラルド
「貴様...どこかに所属しているのか?」
リツト
「答える義務はない。」
ラルド
「まぁいい、今回は見逃すとしよう。一応君、もしくは君たちはこちらからすれば非公式の組織だ。行動には気をつけた方がいい。」
リツト
「報告するか。」
ラルド
「いやしない。君達にも事情があるのだろう。」
リツト
「氷の騎士様も意外に情に厚いのだな。」
ラルド
「言葉には気を付けろ浮浪の鬼火。今後会うことがないことを祈っている。」
リツト
「・・・同じだ。」
ーーー ーーー ーーー
ラルド
「・・・ということがあってだな...」
ミルダ
「結局、所属は聞き出せなかったの?」
ラルド
「ああ。こちらが無理にでも聞き出そうとするのは野暮だ。それこそ、何かの引き金になりかねない。
・・・しかし、何かロゴのようなものは腕部に付いていたな。」
アカツキ
「どんなマークだったんだ?」
ラルド
「たしか...城の紋章を付けていたような...
すまない、戦いもあったせいであまりよくは見ていなかった。彼女はそれなりに強い。」
アカツキ
「城の紋章...ね...。」
ミルダ
「隊長、なんか知ってるの?」
アカツキ
「いや、知らん。」
ミルダ
「知らんのかいっ」
アカツキ
「ただ手がかりが掴めただけでも大きい。ありがとう。」
ラルド
「気にするな。同じ所属の頼りさ。」
? ? ?
「おや、これは浪合隊の。」
アカツキ
「ホルスさん!」
ホルス
「久方ぶりですかの。」
アカツキ
「そういえば最近、稽古をつけてもらってなかったですもんね。また機会があればよろしくお願いします!」
ホルス
「いつでもお待ちしておりますぞ。」
・・・
アカツキ
「じゃあ、ラルドもありがとな!」
ミルダ
「二人ともじゃあね〜!」
ホルス
「・・・元気な方々ですな。」
ラルド
「ああ。彼らは、何かやってくれそうな気がする。」
・・・
・・・
日は暮れ、天道には月が流れる。
アカツキ
「ほら、食べな。」
卓上には暖かな料理が並ぶ。
アルフェリア
「わぁ...!本当にいいんですか...?」
ハルヤ
「私たちからの気持ちだ。好きなだけ食べるといい。」
アルフェリア
「ありがとう・・・ございます・・・。」
泪が溢れる。部屋の灯りに照らされ、まるで硝子の様に煌めく。
リサト
「(食事で感動とはね...十字教会、一体どれだけの組織なんだ...)・・・あれ、そういやアイツは?」
ミルダ
「確かにいない!」
ガリュード
「上じゃないのか。」
リサト
「だろうな。」
・・・
リサト
「やっぱり。」
アカツキ
「ん、ああ、リサトか。」
リサト
「どうしたんだ?お前も一緒に食えばよかったろ。」
アカツキ
「いやいいよ。今日はちょっと考えたくて。」
リサト
「へぇ、珍しい。会話の練習か?」
アカツキ
「ちげーよ!
・・・なぁ、リサト。」
リサト
「なんだ。」
アカツキ
「俺はこれからも、隊長でいられるんだろうか?」
リツト
「っ...どうした急に。お前らしく...なくもないわけでもないが。」
アカツキ
「今回の俺の決断は間違ってないだろうか。お前らを面倒ごとに巻き込んじまいそうでさ...
正直怖いんだ、これからが。これからこの街で、もしかしたらこの世界で、何かが起ころうとしてる気がする。
もしそんなことが起こったとして、お前らを巻き込んじまわないか心配なんだよ。」
リサト
「・・・まあなんだ、大袈裟だ。その上、今更だ。今こうやっていられる以上、お前は隊長であれるし、俺たちは隊員でいられる。
隊長に着いていくのが隊員の務めだからな。これからも頼むぞ、隊長?」
アカツキ
「うん、それもそうだな。これからもよろしく頼む。」
海風が届く。
遠くに見える海面には月光の道ができる。
まるでこの先を示すように。
・・・
ミルダ
「あっ、戻ってきた。」
リサト
「戻った。」
ハルヤ
「何話してたんだ?」
リサト
「これからのコト。」
アルフェリア
「あ、あの!...アカツキ、さん?」
アカツキ
「な、なんだ?」
アルフェリア
「お料理、美味しかったです...!」
アカツキ
「っ...そうか、それは良かった!」
ミルダ
「結局、隊長は優しかったね。」
リサト
「そういうやつだって、俺らはもう知ってるけどな。」
ガリュード
「しかし、そうなった以上、やはり面倒ごとは付き纏うぞ。」
リサト
「どちらにせよ、アイツはやるだろ。」
ガリュード
「・・・確かにそうか。」
理解し切っているからこその、呆れた笑みを浮かべる。
そして、佳境への歯車は動き出す。
To be continued.
謎の人物、リツトと出会ったラルド。そしてその情報を得たアカツキ。その巡り合いはどこへ向かうのか。