天使!!!!
「空、遠いなぁ」
2100年の夏。
日本の本土から離れた島に一体の天使が現れた。
「……? 青い隕石?」
天使を初めて目にしたのは離島――叡智島と言う――の少年だった。
島の南西側にある海の見える丘で少年はいつものように日向ぼっこをしていたら、青空から天使が落ちてきたのだ。
「ん? えぇ? わぁぁぁぁぁー-!」
バチャンッ!
地面に衝突した天使はスライムのように弾け飛び、丘の草花に雨のように降り注いだ。少年の顔にも真っ赤な天使の身体だったものがべちゃべちゃに引っ付いた。
「うぇッ! ペッ! ペッ!」
天使の弾け飛んだところだけ、爆心地のように穴が空いていてそこには天使のリングだけが残ってた。
口に入った天使だった液体を吐き捨てて、少年はそのリングを手に取った。
「輪っか? そういえば、頭っぽいところに何かついていたような」
天使のリングを見様見真似で頭の上にかかげてみると少年の身体が浮き上がっていく。
「うわぁ! 飛んじゃった!」
あの天使は飛べずに落っこちたのに、少年の身体はどんどん遠かった空に近づいていく。
下を見下ろせば島がどんどん小さくなる。
「俺、このまま空に連れてかれちゃうのかぁ~~!?」
雲を突き抜けると、ちょっと先には飛行機が泳いでる。
深い青が水色に近くなってゆく。太陽に焼き焦がされそうで、冷たく吹きすさぶ風に凍らされそうだ。
そろそろ強風でズボンもぬげそうだ。
少年は高く上がる上がる。
もう戻れない。と思ったのは深い宇宙が見えた時だった。
「わぁ、初めて宇宙に来ちゃった」
真っ黒な地球の果て。空にある奈落の宙。足元の偉大なる地球の迫力に少年は目を輝かせた。
『限界高度デス。上昇機能ヲ停止シ、低速下降モード二移行シマス』
『低速下降モードノ選択ガ不可能デシタ。コレヨリ強制落下ヲ開始シマス』
えっ? と少年の声が出かかった時にはもう星々の煌めく奈落から引き離されて、青い青い空が近づいていた。
大気圏突入。
少年の身体が焼け焦げる。その絶叫は空の誰にも届くことはない。
飛行機に乗っていた乗客は燃えながら、落ちていく人間を彗星に見立てて旅路の無事を祈る。
そして、少年の住んでいたあの島へと少年はとてつもない速度で打ち付けられる。
血飛沫、肉飛沫。綺麗に水面の中へと反射して、赤い流れ星が今度は海の中へと墜ちていく。
墜落の天使のリングは故障してしまっていたのだった。
バラバラになった少年のぐしゃぐしゃの頭の上に血まみれの天使の輪っか。
野に咲く花が真っ赤っか。
島の誰も天使が来たことも、少年が死んだことも知りはしない。
天使のような凄い人物にも間違いがあって、その間違いで死んでしまったりすると、天使にしか治せない魅惑の罠にか弱い羊は間違って手を伸ばしちゃう。それで何も悪くないのに惨たらしくなっちゃう。
誰も天使の輪の治し方なんて知りはしない。