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あるまちの事件  作者: 大久 永里子
第八章 吹き返す風の吹くまち
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第八章 第3話 巡り会う彼ら

 ぎこちなく、ジャンはルイの相手をしていた。


 ねだられて船の絵を描いたり、街灯の絵を描いたりしたが、残念ながら絵心はあまりないので、ジャンが描いた絵を見て、少年は不満そうだった。


 子供の頃は弟や妹の世話をしたりもしたが、小さな子供に接するのは久しぶりで、5歳の子供はこんなものだっただろうかと思う。


 ルイは一度も騒がしい声を上げず、大人しく遊んでいた。



 寝室はずっと静まり返っている。



 胸に不安を一杯に抱えているルイの様子は、いつもの彼とは違っていたのだが、この時のジャンにそれは分からなかった。




 眉。瞳。鼻。




 見れば見る程自分にそっくりで、ジャンはルイから目を逸らすことが出来なかった。



  あの都市まちで、ルイとレベッカはどんな風に生きていたのだろう。



 時折ルイも、自分の顔を不思議そうにじっと見つめた。




  名乗っては、いけないのだろうか。




 その表情を見ると、胸が苦しくなった。



 そんな風にしている内に、ルイはうつらうつらとし出して、まるでぜんまいが切れた様に、ほとんど唐突に眠ってしまった。



 小さな心と体は、疲れていたのだ。



 ジャンは長椅子の上にルイを横たえた。


 少し困った。


 長椅子は寝返りを打つと、すぐに床に落ちてしまいそうな幅しかなかった。

 下に敷き詰められる柔らかい物でもあればよかったが、そういう物はみんな寝室の棚の中だった。


 少しおろおろとしてから、結局ジャンは食卓机の椅子を持って来ると、ルイのすぐ横に座って、彼を見守ることにした。



 知り合いを連れてすぐに戻って来ると言った飴色の瞳の女性を、ジャンは待っていた。



 レベッカは、なぜあそこにいたのだろう。


 彼女は、自分に会いに来たのだろうか。


 

 先程のわずかな話だけではレベッカが置かれている状況がよく分からず、自分がこれからどうすればいいのか、判断出来なかった。




 ―――――――――――――六年が経っていた。


 まだお互い若かったから大きく変わっては見えないけれど、それでも六年の時間の経過は、どちらの外見にも少しだけ現れていた。


 今日見た、今のレベッカの姿を記憶に刻もうとした時、彼女が提げていた鞄が頭をよぎり、胸がずきりとした。





 やがて扉が叩かれた。




 玄関を開けると、ふわりと風が吹き込んだ。




 飴色の瞳の女性の横に、白っぽい金髪の、背の高い青年が立っていた。

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