第一章 第3話 青年の街
はぐれたらしい母親のことが気に掛かったが、兎に角少年を安全な場所に移動させたかった。
痛む足を引き摺りながら、マリアンはそこから十五分は歩いた。
ロウジーが落ち着き払っていて急ぎもしないので、正直ひやひやした。
と言っても、速足で歩かれても、確かに今の自分の足では付いて行けないけれど。
内心どきどきしていたが、幸いあの男達とは出会わなかった。
両側に平屋の家が建ち並ぶその住宅街に着くと、通り過ぎる人、通り過ぎる人、全員がロウジーに声を掛けて行き、驚かされた。
「まあロウジー、お帰りなさい。」
「よお、ロウジー!」
ご近所付き合いが余程密なのだろうか。
それともこういう街の気風なのだろうか。
「ロウジー!どうした別嬪さん連れて!」
そう声を掛けて来たのは、自分やロウジーと年頃が同じに見える男だった。
「仕事仲間だよ。そこで偶然会った。」
ロウジーがそう応えると、その男はまじまじとマリアンを見つめた。
「えっ、グラナガン家の……………」
やはりこの都市で、グラナガンの名前は特別な響きを持つらしい。
憧れが混ざる眼差しで自分を見つめた男にマリアンはにっこりと微笑み掛けた。
彼女はこういう時は堂々と笑顔を返すことにしていた。その方が、男性とは適度な距離感を保てることが多かった。
男は恥ずかしげにおたおたとして、友人の方へ視線を戻した。
「その子は?」
「迷子みたいだ。後でこの子の母親捜し、頼むかもしれん。」
「――――――――――――分かった。」
ちょっとだけ真面目な顔をして頷くと、男はにこやかに去って行った。
「――――――――――――みんな仲いいのね。」
「そうか?」
言いながらロウジーは、一軒の家の前で立ち止まった。
「着いたぞ。」と言って、青年はベルト通しに紐で繋いだ鍵を、腰ポケットから取り出した。
その時には歩くのが辛くなって来ていたので、マリアンはほっとした。
ご家族は留守なのだろうかと思う。
マリアンの故郷では、家族全員が留守の時と夜間以外、鍵を掛ける家は少なかった。
と。
「今家族全員別の都市に住んでいて、空き家だけどな。」
青年が玄関を開けながら、そう言った。
意外な話だったが、兎に角あの男達から隠れられて、自分が座って休めれば、と思って同僚の後ろから家の中を覗き込み、マリアンは絶句した。
何これ。