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あるまちの事件  作者: 大久 永里子
第四章 レベッカの告白
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第四章 第1話 嵐のあとの部屋

 誘拐未遂犯の連行のために大型の二台の馬車に乗ってやって来た警官達は、被害者母子(おやこ)の母親の具合が悪いと聞くと、母親の聴取を後日とすることにして、男達だけ引っ立てていった。


 あまりにも諦めがよ過ぎて、だから駄目なのだろうとは思ったが、ロウジーもマリアンも、今はこれでいい、と思った。



 横になったレベッカは、虚ろな目で天井を見つめていた。

 ただあの少しあと、マリアンが温め直したスープを飲むことは出来ていたので、ロウジーは多少、安堵していた。



 警察が来るまで残ってくれていた仲間に礼を言って別れ、マリアンとロウジーは、居間の椅子に腰を降ろした。




 家は驚く程綺麗になっていて、ようやく落ち着いたロウジーは、「片付けてくれてありがとな…」と言いながら、どこか不安げに周囲を見回した。



 まあ、種類別になるべく分かり易くまとめておいたけど、しばらくのあいだ、どこに何が仕舞ってあるか探すかもしれない。それとも片付いている部屋がいつもと違い過ぎて、落ち着かないのだろうか。


 まさかこの時ロウジーが、これが維持出来なかったらまたマリアンに怒られると想像して、彼女じぶんおびえていたのだとは、マリアンは思わなかった。



 レベッカが話せる程に回復するまでどれくらいかかるだろう、とマリアンが考えていた時。


 ロウジーが捨てられた子犬の様な、悲しげな声で呟いた。




「腹減った…。」

「えっ?」






 ロウジーが、朝食を食べていなかったとは思わなかった。


 取り敢えずマリアンは、台所で炉に火を起こすと、昨日きのう女性達が持って来てくれた野菜と塩漬け肉を適当に炒め合わせて、卵でとじ、パンを添えて出してやった。


 大したものを作った訳でもないのに、ロウジーはを輝かせて、「うまい‼」と言ってわずか数口で皿を空にし、それを見たマリアンは、余程お腹が空いていたのね、とは思ったが、心の奥が浮き立つ様な嬉しさで、なんだか体中、むずむずした。


 だがそれを、自分一人の手柄にしておくことは出来なかった。


 マリアンは昨日きのう書き留めておいた覚え書きをロウジーに渡しながら、その食材を持って来てくれた女性達の名前を更に口頭で、一人漏らさずきちんと青年に伝えた。



 ロウジーは屈託のない笑顔で、「そうか。」とうなずいただけだった。


 もしかしたらこの人は、だいぶ鈍いのかもしれない。







 それから少しして、レベッカが部屋を出て来た時、マリアンとロウジーは、はっとした。




「ルイが寝たので…………。」


 栗色の髪の女性は、小さな声で、呟く様にそう言った。

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