表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あるまちの事件  作者: 大久 永里子
第三章 嵐のつめあと
21/53

第三章 第9話 抱えているもの

 レベッカは、枕元の小机の上に置かれていた布鞄を取り上げた。


 そのやや大きな鞄に、グラナガンの三人は違和感を覚えた。

 素っ気ない生成りの布鞄は、母子おやこの身なりにそぐわなかった。


 ぐっしょりと雨を吸った鞄が布団に付かない様に気遣いながら、レベッカは鞄の中から、四角い、象牙色の容れ物を取り出した。それは本に似た形状をしていた。



 その鞄に入っていたのが奇妙に思える程、革製のそれは、おそらく鞄より遥かに高価な物だと思えた。


 レベッカは布鞄だけ小机に戻すと、躊躇ためらう様に三人を見上げて、それから改めて頭を下げた。


「助けて下さって、本当にありがとうございます。」


「……まあ、手が一杯あったからな。」


 謙虚にそう言って、ロウジーは笑った。




「お礼を差し上げなければならないんですが、今手許にあまり現金がないんです………」


 言いながらレベッカは、その容れ物を少しだけ開けた。

 本の様な形状の容れ物は、やはり本の様に「背表紙」の部分を真ん中にして、左右にひらいた。


 膝の上に「本」を立て中を隠す様な開け方をしたレベッカは、そこから指先で摘まめる程の大きさの物を取り出すと、容れ物を閉じた。それからレベッカは、容れ物は自分自身に立て掛ける様にして、中から取り出したそれを両手で差し出した。



「本当に申し訳ないのですが、これを受け取ってお金に換えて頂けませんでしょうか。」



 金の指輪の上に、決して小さくはない青い宝石が輝いていた。


 石を取り囲む、細やかな台座の細工も見事だった。



 あまりに高額そうな「謝礼」に戸惑い、ロウジーもマリアンも、咄嗟に言葉が出なかった。


 ただ、固辞するにしても受け取るにしても自分の一存では決められない、とロウジーは思った。

 ここまで近所の住人達が、何人も力を貸してくれていた。




「マリアンは受け取っておくべきだと思います。」


 唐突に、黒髪の青年がそう言った。

 マリアンが驚いて青年を見やると、ファゼルは静かな声で続けた。


「仕事を休んだ分を、受け取っておくべきです。」


「でも、こんなもの、もの凄く、高いでしょ?」

 マリアンは、やや狼狽うろたえた。


「金額が適切かどうかは、現金にしたあと、何人で分けるかによります。」




 ロウジーは少し考える様子を見せた。


 レベッカがもう一度「貰って下さい」と言った時、金髪の青年は、それを受け取っておくことにした。



 その時、玄関を叩く音がした。

 隣家の夫人の声がする。

 スープを持って来てくれたのだろう。

 マリアンが玄関へ出て行った。



「ファゼル。」

 話も一段落していた所であり、ロウジーは、ちょっと声を落として同僚に呼び掛けた。

「俺今日遅番なんだ。もう邸に帰んなきゃならないんだが、さすがにこの状況じゃ――――――――――――――」


 黒髪の青年は軽く目を見開いて、そしてうなずいた。


「分かった。俺が帰る。ジゼル様には俺が申し伝えておく。」

「すまねーな。」



 その二人の会話に、レベッカの顔色が変わっていた。






 隣の夫人が小さな鍋に入れて持った来てくれたスープをマリアンが皿に移し替えようとした時、ロウジーとファゼルが部屋を出て来た。


 ファゼルだけ戻ると言う。


「ジゼル様に状況を説明しに、どちらかだけでも一度邸に戻って来てください。」と言い置いて、ファゼルはグラナガン邸へ帰って行った。



 もうじき警察も到着するだろう。



 新人だというのに、四日も仕事を休んでいる。

 ファゼルの言う通り、さすがに自分は一度邸に帰らなくてはと思いつつ、マリアンは木製の盆にスープを載せて、レベッカが休んでいる部屋へと運んだ。



 「スープを」と戸口から中に呼び掛けようとして、マリアンは声を飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ