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あるまちの事件  作者: 大久 永里子
第三章 嵐のつめあと
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第三章 第7話 戸惑い

 それから程なくして女性達がそれぞれの家に引き揚げ、マリアンとファゼルだけがその場に残った。


 ご婦人達を見送ったあとの居間で、ここまで事情の分からぬままでいたファゼルは、ようやく質問をする機会を得られたのだった。


「あの子が迷子の子供ですか?」


 黒髪の青年に尋ねられ、マリアンはうなずいた。


「ではお母さんは見つかったんですね?」

「ええ………」

 もう一度(うなず)いたマリアンの声に、明るさはなかった。

 ファゼルは静かに、問いを重ねた。

「外で縛られてる男達はなんですか?」

「それがわたし達にも分からなくて―――――――――外はどうなってるの?」



 マリアンが訊くと、青年はちらりと奥を見やった。

 母子おやこが休んでいる部屋の扉は、ひらいたままになっていた。


 マリアンの方に顔を近付けて、執事見習いは声を落とした。

「四人とも何も答えないので、警察に引き渡すことになりました。今警察を呼びに行っています。」


 マリアンは目をみはった。


 外がもうそんな状況になっているとは思わなかった。


 警察が来れば、彼らは男達にもレベッカにも、なぜルイが狙われているのか尋ねるだろう。母子おやこの側にやましいことがないことを、マリアンは願った。



「マリアンお姉ちゃんと、ロウジーお兄ちゃんが、いっぱいあそんでくれたんだよ!」



 母親に無邪気に報告するルイの声が聞こえて、マリアンの表情はかげった。

 母子おやこの事情は、追い追い訊くことになるだろう。



 マリアンは、今はファゼルに視線を戻した。

 彼女にも、尋ねたいことがあった。

「ファゼル。あなたはどうしてここにいるの?」


「急に休みが取れたので、様子を見に来たんですが――――――――――」

静かな波の様な声でそう応えて、そこで青年はやや言い淀んだ。

昨日きのうの嵐も気になったのと…………………帰りの馬車代がないかもしれない、と思ったので。」



 優しさに、びっくりした。



 おそらく一番最後に、一番小さな声で告げられたのが、彼がわざわざここまでやって来た理由だった。



「ありがと。でも塗ってくれた薬が効いたみたいで、もうほとんど痛くないの。」


 最早申し訳なくて、恐縮しながらマリアンがそう言った時に、玄関扉が開けられた。



 家主と、玄関前で並んで立っていた二人とは真正面からばったりと顔を合わせ、全員が一瞬、戸惑った顔をした。




 一秒程の奇妙な間のあと、ロウジーが切り出した。




「レベッカさんは、話せるか?」


 女性達が帰宅したことで、母親の手当てが終わったと分かったのだろう。


「今休んでるけど………。」


 マリアンは躊躇ためらいながら、後ろの部屋を振り返った。

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