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あるまちの事件  作者: 大久 永里子
第三章 嵐のつめあと
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第三章 第2話 暴風

 レベッカが悲鳴を上げながら、ルイを抱き上げて後退あとずさった。


「なんだお前ら!」


「口出しすんじゃねーよ。」


 先頭の男はロウジーにそれだけ言い返すと、母子おやこの方へ足を踏み出し、低い声で恫喝した。


「見つけたぞ。子供をこっちに寄越せ。」



 おそらく自分が後をつけられたのだ。

 ロウジーは自分の失態に気が付いた。


 食卓の前に、レベッカは追い詰められていた。

 その腕の中で、ルイが泣き叫んでいる。


「ちょっと…!」


 マリアンが母子おやこの前に立ちはだかった時、ロウジーが身を低くしながら三人と男の間に割って入り、一杯に引いた右(こぶし)を左上にねじり上げる様にして、男の頬に打ち込んだ。


 男の視界に、ロウジーの右手は入っていなかった。突然、見えない方向から飛んで来た拳に頬を打たれ、激しい音を立てながら男は吹き飛んだ。



「てめぇ!!」


 後ろの男達が色めき立った。



「ロウジー!!」


「部屋に入ってろ!!」


 裏の庭へと出る出口がもう一つあったが、今ルイの母が走るのは無理だと思えた。


 男達の前に立つロウジーに叫ばれ、マリアンは咄嗟に、ルイを抱くレベッカを机の左側に押し出す様にして退避させた。

 そのまま二人を居間の左奥にある、今朝まで寝室としていた部屋へと押し込み、扉を閉めると彼女は、扉を背中に庇う様にして、その前に立った。


 自分がなんの役に立つ訳でもないことは分かっていたが、ロウジーを置いて行くことが、出来なかった。



 と、目で母子おやこの行方を追っていた男の一人が、マリアンの顔を見て、掠れた声を上げた。



「てめぇ……」



 悪意が自分に向くのに気が付いて、マリアンは体を強張らせた。


 娘の美しさは印象が強かったため、男はマリアンの顔を覚えていた。



 その瞬間、ロウジーの右肘が男の右のこめかみを突き飛ばした。


 声もなく、男が崩れ折れた。



「てめぇ呼ばわりすんじゃねーよ。」


 やや気持ちが収まらず、ロウジーは既に倒れた男を、思わず足で小突いていた。




 その時。



 小さな子供と女性の悲鳴が響き渡った。


 はっとして、マリアンは後ろを振り返った。


 ロウジーは、もう二人いる筈の男の内の一人が、いつの間にか目の前からいなくなっていることに気が付いた。


 そして気が付いた時には、残りの一人も、玄関を出て右へ向かおうとしていた。



 マリアンが急いで扉を開けると、部屋の中にいる筈の二人の姿がなく、奥の窓がいていた。




「ルイッ!!」


「おかあさん!!」




 窓の外から、悲鳴が聞こえていた。

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