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あるまちの事件  作者: 大久 永里子
第二章 嵐
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第二章 第4話 風雨の庭の再会

 風が頬と髪を叩いて行く。


 雨はまだそれ程降っていないが、一度ひとたび降り出せば、激しいことになりそうだった。



 夜を迎えた邸で、ロウジーはランタンの灯を頼りに庭を確認していた。


 この天気では、今日は庭園灯も灯せない。


 厚い雲の向こうで辛うじて太陽は沈み切っていない様で、外はまだ完全な闇ではなかったが、それも後(わず)かで、程なく空は光を失うだろう。



 放置されている庭道具がないかと探して廻り、見つけた物を回収して小屋に仕舞った。


 庭木がうねる様に掻き回され、久しぶりの激しい嵐に、あの二人は大丈夫だろうかと不安になる。



 昨日きのうの夜、マリアンと入れ替わる様に邸に帰って来た。


 今日マリアンが邸に帰って来なかったということは、おそらくルイの母親はまだ見つかっていないのだろう。



 皆仕事や学校があるから、都合が付く者が都合が付く時に行動する様にして母親の捜索を続けているが、母親が見つからなかった場合のことを本格的に考える必要があるかもしれない。




 自分に割り当てられた場所の確認を終え、激しい風に打たれながらロウジーは、使用人通用口の方へと道を戻り出した。



 風がどんどん強くなる。



 夜会でもない限り、グラナガン家の使用人の勤務は二交代制で、ロウジーは明日あしたは遅番だった。



 朝一で二人の様子を見に行って、就業時間までに戻って来られないことはない、と思った。


 激しさを増す嵐に、不安が掻き立てられた。



 風は絶え間なく唸っていたが、ふと人の足音が聞こえた気がして、ランタンの灯ををかざしながら、ロウジーは右を向いた。




「おわっ?!」




 頓狂な声を上げ、青年は思わず半歩後ろに下がった。




 ランタンの灯の中で、幽霊の様に力なく立つ黒い髪を振り乱した男が、夜の庭園に浮かび上がった。




 制服も着ておらず不審者かと思ったが、どこかで見覚えのある顔だった。


 風の中で、虚ろな瞳と目が合った。



 男はだが無言でロウジーの横を通ると、今にも倒れそうな様相で、ふらふらと通用口の方へと歩き出した。



 マリアンから名前を聞いていなければ、彼が誰だったかすぐに思い出せなかったかもしれない。



「………おい、どうしたんだ?」


 尋常ならざる様子に、声を掛けてみる。


 と。


「………分からない………」


 予想外過ぎる答えに呆気に取られて背中を見送っていると、数歩歩いて黒髪の執事見習いは立ち止まり、振り返った。



「…迷子のお母さんは、見つかりましたか?」



 力弱い声で言われて、ロウジーはちょっと困惑した。

 相手に他人ひとの心配をする余力が残っていたとは思わなかった。



「いや…………まだ…………」

「そうですか…。協力出来ることはしますので、何かあったら言って下さい。」


 他人ひとの心配をしている場合ではなさそうな様子でそう言うと、黒髪の青年は再び背中を向けて通用口へ向かって歩き出した。だがそこからわずかも行かない内に、執事見習いはよろめいて倒れそうになった。


「おい!」


  なんなんだ一体。




 動揺しながら歩み寄り、ロウジーは黒髪の男に肩を貸そうとしたが、断られた。

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