第二章 第3話 再び ロウジーの家
「マリアン?!」
右腰にルイが抱き付いた状態で出て来たロウジーは、驚きの表情を浮かべていた。
「レベッカさんは、見つかった?」
心を落ち着かせ、マリアンはまず尋ねた。
押し殺された声になにごとか察したのか、ロウジーはしどろもどろに応えた。
「いや、まだ……仕事どうしたんだ?」
「足の腫れがひどかったから、お休み下さったの。」
言いながら中に入ったマリアンは、一度部屋を見回してから訊いた。
「何、してたの?」
「外に出すのは危ないから、中で遊んでやろうと思って………」
「お兄ちゃん、もう一回!」
口籠りながらぼそぼそと言うロウジーにしがみつく様にして、ルイがぶら下がっている。瞳をきらきらさせて少年はなにごとかをねだり、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「追い駆けっことか、闘いごっことか、人間風車とか………」
段々小さくなる声で、ロウジーは説明を続けた。
なぜ一日で元の状態に戻るのか。
マリアンは軽くロウジーを睨んだ。
怒りを察して、青年の顔が強張る。
まあ、擦れ違いにならなくてよかった。
しかし部屋のこの状況は頂けない。
マリアンはきっぱりと宣告した。
「はい、じゃあ、もうお片付けの時間!」
「ぼく、まだあそびたい!」
「坊主、逆らうな。」
緊張を滲ませ、青年は少年を制止した。
ロウジーの父親は木工職人だそうで、別の都市から長期の仕事の依頼を受けて、数年掛かる見込みのその仕事のために、ロウジーの家族は今、一時的にそちらに移住しているそうだった。
その時既にフロウラングの郵便局で働き出していたロウジーだけがフロウラングに残り、いずれ家族が帰って来る予定のこの家の管理のために、彼は時折ここに戻って来ていると言う話だった。
正直、管理者が戻らない方がこの家は綺麗に保たれると思う。
マリアンは、ロウジーの母に同情した。
その日も、ルイの母親は見つからなかった。
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自分の人生の全てが変わってしまったあの日の記憶は、途切れ途切れだ。
主人にお茶を届けるように言われ、小さな台車に載せられたお茶のセットを、主人の部屋に運び入れた。
部屋の卓上に、ポットと、お茶菓子と、カップを置いて、ポットから一杯分だけお茶を注いで、退室しようとした。
突然、主人に凄い力で腕を引っ張られた。
その後のことは、本当に覚えていない。




