表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/202

第37話



「それじゃあな」


 ゴーラル様はそう言って歩き去っていった。

 俺もしばらく庭を歩き、鍛冶工房へと向かうと、そこでベルティの姿を見つけた。

 こちらに気づいた彼女が元気よく手を振ってきた。


「フェイク。ちょうど良かったわ」

「どうしたんだ?」


 ベルティは寝起きなのか、寝ぐせはそのままだし衣服だってパジャマのままだ。

 そんな彼女の腕には箱が抱えられている。


「これこれ。渡しておこうと思ったのよ」


 そういってベルティが箱を差し出してきた。

 なんだ? 中を確認してみると、そこには魔鉄が複数入っていた。

 ……エイレア魔鉄ばかりだ。

 だが、その奥に……他とは一線を画するような魔力を秘めた魔鉄があった。

 聞かなくても、分かる。

 思わず唾を飲み込み、俺はベルティを見た。


「これは……もしかして――」


 見た目は他の魔鉄とそう変わらない。

 しかし、そのうちから感じられる莫大な魔力。

 ベルティはにやりと笑みを浮かべる。


「それが、エスレア魔鉄になるわ。エイレア魔鉄と組み合わせて、良い剣をお願いするわね」

「ああ、任せてくれ」


 返事をしながらも、俺の視線は魔鉄にくぎ付けだ。

 手元の箱に入っている魔鉄たちは、どれも一級品の代物だ。


「それとこれ。ホーンドラゴンの鱗よ。これを組み合わせてね」


 ベルティがとん、と箱の上に拳大ほどの鱗を乗せた。

 それに触れてみて、俺は驚いた。

 確かに生命の息吹を感じ取れるかのような、脈動を感じる。

 まだ、今この瞬間も命があるかのようだった。


「……かなり頑丈だな。これを破らないといけないのか」

「そうよ。ホーンドラゴンの中でも、あの個体はかなりレアな個体ね。たぶん、今までのホーンドラゴンとは比べ物にならないわ。その素材で作る剣も、きっと国宝級の代物になるはずだわ」

「素材は十分。……あとは俺の腕次第ってことだな」

「ええ、任せたわよ」

「ああ」

 

 こうして、素材たちを見ていると……鍛冶師としての血が騒ぐ。

 俺は箱にホーンドラゴンの素材をしまい、鍛冶工房へと向かう。


「ちょっと、色々調べてみる。ベルティは先に屋敷に戻っててくれないか?」

「ううん、私も気になるしちょっと見せてもらってもいい?」

「……いいけど、たぶん集中するから話し相手にはなれないぞ?」

「見ているだけで楽しいからそれでいいわよ」


 嬉しそうに微笑んで、ベルティが俺についてきた。

 彼女がそういうのなら、いいか。

 俺はベルティとともに、鍛冶工房へと向かった。




 工房内にはいった俺は、それから鍛冶の準備を始めた。

 用意といってもひとまずは魔鉄を溶かし、混ぜるための器だ。

 それから俺は箱から魔鉄たちを取り出した。

 

 エイレア魔鉄は問題ない。

 ……問題があるとすれば、やはりエスレア魔鉄だ。

 手に取り、改めてよく観察する。


 これまで見てきた魔鉄と比べて明確に違うのは、内部に秘められた魔力だ。

 これまでの魔鉄とは……重みが違う。その迫力に飲まれたかのように、握っていた手が震えていく。


 全身を威圧するかのようなこの魔力に、俺はただただ唾を飲みこみ、押し黙るしかなかった。 


「加工するにはかなりの熱量が必要になるとは聞いていたわ」


 こちらを伺うように見てきたベルティに、こくりと頷いて返す。


「……みたい、だな」


 熱量だけが問題ではない。

 エスレア魔鉄は俺が考えていたよりもずっと繊細だ。

 ただ、乱暴に熱を込めてしまえば、エスレア魔鉄が持つ力を100%引き出すことはできないだろう。


 これを、俺は正しく加工できるのか?


 これまで一度も経験したことがないこの事実に、俺は唾を飲みこんだ。

 ただ、同時にこみ上げてきた感情は……なんとしてでも加工してみたいという鍛冶師としての気持ちだった。

 この鍛冶を行うことができれば、きっと俺の腕も一段成長することになる。


「どうできそう?」


 腰を折り曲げるようにして、ベルティが俺の顔を覗きこんでくる。


「……まだ断定はできないが、頑張ってみようと思う」


 断定はできない。

 これは正直に伝える必要がある。

 今の俺の中にある感情は、挑戦者としてのものだ。

 できるか分からないが、やってみたい。そんな子どものような望みだ。


「ええ、お願いするわね」


 にこりと微笑んで、ベルティは俺の我がままを聞いてくれた。


「ああ、色々やってみようと思う」

「そう焦る必要もないわ。ゆっくり、確実にね」

「分かってる。それと一つお願いしたいんだけど……ベルティの使わない剣を一つ置いていってもらうことはできるか?」


 彼女は二つの剣を持っているから、このお願いをしてみた。


「私に合わせて作るためにってこと?」

「そうだ。見せてもらってもいいか?」

「ええ、いいわよ。こっちはシーレア魔鉄で作った剣だけど、これと同じような感じのを作ってもらえたら助かるわ」


 渡された剣を握りしめる。 

 ……丁寧に作られた剣なのは一目見れば分かる。

 鍛冶師向けの学校があるのなら、これを教科書として鍛冶師たちに見せたいくらいだ。

 

 剣自体はもちろんだが、エンチャントも無駄がなく綺麗だ。


「これは宮廷の鍛冶師が造ったのか?」

「そうみたいね。なんかお店に置いてあったから買わせてもらったのよ」

「……そうか」


 これを参考に、エスレア魔鉄で剣を作ればいい。

 とはいえ、まったく同じ工程で作れるわけじゃない。

 時間が無限にあるわけでもないので、中々に難しい依頼だ。


 あまりにも時間をかけすぎてしまえば、俺の鍛冶師としての評価を下げることにもなる。

 俺はこくりと頷き、エスレア魔鉄を観察していく。


 エスレア魔鉄の観察をしていて気づいたのは、やはりその繊細さだ。

 これまでの魔鉄のように全体を無理やりに熱して溶かしてしまうのは、この魔鉄においては絶対にしてはいけない行為だ。

 これに関しては他の魔鉄をエスレア魔鉄に見立てて練習していくしかない。


 エスレア魔鉄を最適に溶かすための熱量を、自分で見定めるんだ。

 これは非常に大変だ。

 というのも、俺はこれまでの鍛冶はすべて、経験に基づくものだ。

 今までは他者が行っていた鍛冶を真似し、自分のものとしてきた。


 しかし、エスレア魔鉄の経験はさすがにない。一度も見たこともないため、すべてが手探りとなっている。

 実をいうと、俺はオリジナルの一品を製作することに関しては、不得意だった。


 ……技術者というのは二つに大きく分けられると思っている。

 一つは、完全にオリジナルのものを作り出す、いわゆる才能型。

 もう一つは、他者の真似をして、自分なりの色を出す努力型。


 俺は完全に後者だ。

 出来上がっている剣を参考に、自分の技術としていく。0から1を生み出すことはできないが、すでに出来上がった1のものを参考に、別のパターンのものを製作していける。

 どの世界でも、天才と呼ばれるのはやはり0を1にできる才能型だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ