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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第二章

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第35話


 彼女は運ばれてきた食事に目を輝かせながら、答える。


「それと、ホーンドラゴンの鱗を組み合わせて何か剣を打ってもらえないかって思ったの」

「……そう、か」


 エスレア魔鉄、か。

 それの加工は非常に難しいと聞く。

 世界でも加工できる人が極端に少なく、俺としては不安も多い。

 それは、俺も同じだ。


「お願いできるかしら?」

「……俺は、エスレア魔鉄の加工をしたことがないんだ。だから、ベルティが求める剣を打てるかは、正直分からない」

「え? まあ、でもなんとかなるんじゃない?」

「い、いやそんな。俺の剣ができなかったらホーンドラゴンの討伐は難しいんだろ?」


 最高でエイレア魔鉄までしか、俺は打ったことがない。

 正直な話をすれば、ホーンドラゴンの脅威がいつ来るか分からないこの状況で、引き受けていいのかは分からなかった。

 もしも、俺が剣を作れなければこの街が脅威にさらされる。


 俺と知り合っていた人たちだって、何か怪我をしてしまうかもしれないんだ。

 脳裏に浮かんだイヴァスたちを含め、これまでに出会ってきた冒険者たち。

 それに、リグやアルメ……。


 何より、アリシアやゴーラル様にだって迷惑をかける可能性がある。


 エスレア魔鉄で製作した剣なんて見たこともない。

 俺は、何かを参考に剣を打つことはあっても、ゼロの状態から製作したことがない。

 エスレア魔鉄の加工を、どのように進めればいいのかまるで想像できなかったのだ。


「うーん、そうかもしれないけど。まあ、なんとかなるわよ」


 き、気軽に言わないでくれ。

 俺が困っていると、ベルティは笑顔を浮かべた。


「私だって適当なこと言ってないわよ? 街を見て回ってみた結果、たぶんあなたの腕が、この町で一番だと思ったんだし」

「……」

「だからお願い! とりあえず挑戦してみてくれないかしら? ね!?」


 笑顔とともにそういったベルティに、俺はわずかな不安を感じながらゴーラル様を見た。

 彼はこくりと頷き、口を開いた。


「……挑戦してみてくれ。何なら選択肢を増やす行為だと思ってくれればいい」

「選択肢、ですか?」

「ああ。エスレア魔鉄を加工できる鍛冶師は少ない。これからその鍛冶師に依頼したとしても、すぐに出来上がるわけじゃない。現状、加工できる人間は王都にしかいないし、他の仕事に没頭しているからな」


 ……いわゆる、宮廷鍛冶師たちだろう。

 俺が前にいた国ではエスレア魔鉄を加工できる人はいなかったが、この国ではいるようだ。

 彼らの仕事は、国に関する武器の管理が主になるため、公爵家が頼んだとしてもすぐに対応はできないだろう。


 仮に、順調に加工してもらえると決まったとしても、王都までの往復の時間も考慮すれば、一ヵ月、下手をすれば二ヵ月はかかるかもしれない。


「だが、フェイクならばこれから作業を始められるだろう?」

「……そうですね」

「ならば、選択肢が一つ増えるんだ。このままでは、ベルティとともに冒険者、兵士を動員してのホーンドラゴン討伐しかできない。それには、被害者も少なからず出るだろう」

「……はい」

「だが、もしもおまえがエスレア魔鉄を加工できれば、ベルティ一人でホーンドラゴンを討伐できると話している。……つまりだ。フェイクが挑戦して仮に失敗したとしても、対応が大きく変化することはないんだ。だから、挑戦してはくれないか? 失敗しても、オレは責めはしない」


 ゴーラル様の言葉に、ベルティも頷いた。


「ええそうよ。剣ができなくても最悪なんとかできるようにこっちも準備しておくわ。だから、お願い!」


 両手を合わせたベルティ。

 俺だって、世界一の鍛冶師になるというのが夢なんだ。

 それならば、成功させるつもりで挑まなければいけない。

 情けない顔をしてしまったと、深く反省し、頷いた。


「ああ、わかった。最高の剣を作ろう」

「よかったわ! これで断られたらどうしようかと思っていたのよ」

「ただ、多少試行錯誤をする時間が欲しい。すぐに完成品の用意は難しいと思う」

「それはもちろんわかっているわ。大丈夫、いつまでも待っててあげるわ」

「いつまでも、で大丈夫なのか?」

「そこはホーンドラゴンにもお願いしておくわね」


 楽しそうに微笑むベルティに、ゴーラル様も苦笑している。


「ベルティ。フェイクが剣を用意できれば、ホーンドラゴンの討伐は可能……なの?」


 談笑に混ざるようにアリシアが口を開いた。

 ベルティはぐっと親指をたてる。


「ええ、絶対。それは約束するわ。私、これでもSランク冒険者なんだから」

「……そっか」

「ああ、そうだ! アリシア様にも聞きたいことがあったのよ!」

「え? わ、私?」

「うんうん、アリシア様っていうか、フェイク様にもそうなんだけど……」


 ちらとこちらを見てくる。

 俺とアリシア? どういうことだ?


「フェイクってもともと平民なの? それとも貴族? あとどこまでいったの!?」


 きらきらと目を輝かせ、なんてことを聞いてくるのだろうか。

 ぶほっ、とアリシアがむせ、じっとゴーラル様が俺へと視線を向けてくる。


「ほ、ホーンドラゴンの話はもういいのか?」

「だってもう終わったじゃない。フェイクが剣作る、私がホーンドラゴン倒す! はい、終わり! ここからは楽しく話をしましょうよ! というわけで、今はどんな関係なの!? フェイク様ってもともと貴族なの?」


 ……む、無茶苦茶だこの人は。

 ベルティがずいっと顔を寄せてくる。


「お、俺はもともと平民で……婿入りしたんだ」

「あら、やっぱりそうなのね。どうりで貴族らしくないなって思っていたのよ」

「……そ、そうか?」

「ええ、なんだか必死に頑張っている、って感じがして微笑ましいわ」


 にこりと微笑みながらいうベルティは、まったくもって悪意は感じられない。

 感じられない、のだが……そう言われてしまった俺としてはとても複雑な心境であるのは間違いなかった。


 必死に表面上取り繕ってはみたものの、まだまだ俺の所作には平民のそれが残ってしまっているということの何よりの証明だった。

 しかし、同時に少しばかりの安堵もあった。その情けない部分を見せたのが、まだ貴族相手ではなかったからだ。

 だからといって、このまま気を抜いていいわけでもない。これから、より一層気を引き締め、貴族らしさを身に着けていかないといけないだろう。


「そうか。……これから気を付けようと思う」


 それはベルティへの返事というよりはゴーラル様への謝罪のようなものだ。

 ゴーラル様の表情は特別何か変化した様子はない。幻滅させていなければいいのだが。


「別に私は気にしていないわ。それよりも、二人の関係は!? 今どんな感じなの!?」


 ゴーラル様、この人止めてくれませんか?

 いくら自由に話していいといってもここまで質問されても困る。

 俺が助けを求めるようにゴーラル様を見ると、彼はじっと俺を見てくる。


「どこまでいったんだフェイク」


 ……ゴーラル様は、探るような目である。

 これは、答えないわけにはいかないだろう。


「い、いや別に普通の関係ですよ」

「……ふむ、だそうだ」

 

 ゴーラル様はじっとベルティに視線を向ける。

 ベルティはこくこくと頷いた。


「なるほど、そうなのね。ゴーラル様にも質問があるのだけど、フェイクの鍛冶師の腕前はかなりのものなのよね?」

「そうだ。彼はとても優秀な鍛冶師だ」


 ゴーラル様のはっきりとした宣言に、俺は口元が緩みそうになる。

 しかし、あくまでこれは外向けでの返答だ。

 ゴーラル様の言葉に、ベルティの瞳がますます興味の色で飾られた。


「バーナスト家といえば鍛冶師に対してそれなりに思い入れのある家柄でもあったわよね」

「詳しいな」

「ううん。さっぱり。御者が結構詳しくて聞いただけなのよ、私は」

「そうだな。もともとは鍛冶の家で、戦争でそれなりの成果を上げて貴族になったんだ」


 それから、二人はバーナスト家の歴史について軽く話をしていた。

 食事の時間もすぎ、デザートを頂いていた。

 それにしても、ベルティの食事量は異常だ。


 一体あの細い体のどこに入っていくのだろうか。

 胃袋にアイテムボックスでも入れているんじゃないだろうかと思うほどだ。


 皆がデザートを食べ終えたところで、ゴーラル様が口を開いた。


「ベルティ。最後に改めてのお願いだ。このままホーンドラゴンを放置するのは市民の不安をあおることになる。出来るのならば、早めに討伐してもらいたいと思っている。フェイク含め、いくつかの鍛冶師には話を通してある。フェイクに限らず、武器の依頼はいつでもしても大丈夫だからな」

「ええ、もちろんよ。そうだ、フェイク様。鍛冶工房は屋敷にもあるのよね? ちょっと見に行ってもいいかしら?」


 それに対して、異論はない。


「わかった。じゃあ、このままいくか?」

「ええ、いいわ! それじゃあさくっと見に行きましょうか!」


 俺は嬉しそうに笑う彼女に、苦笑を返した。


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[一言] 居候幽霊をこき使ってやろう!
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