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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第二章

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第32話



 近場にある迷宮のランクが低いこともあり、この街は低ランク冒険者お勧めの街とされている。


「でも、より頑丈な剣なんてすぐに用意できるのか?」

「今鍛冶師を探しているみたいですよ。あっ、そうだ! 今度そのSランク冒険者の人に話しておきましょうか!? なんだか、近隣で腕の良い鍛冶師を探しているみたいなんですよ!」

「近隣で? 腕の良い、か。っていっても、俺の腕がその冒険者の要求に至るものか分からないし、紹介してもらっても期待にこたえられるか分からないしなぁ……」

 

 わざわざ足を運んでもらって、徒労に終わってしまえば申し訳がない。

 紹介してくれたイヴァスにも恥をかかせてしまう。

 しかし、イヴァスは首を横に振って笑顔を浮かべる。


「でもでも、フェイクさんの剣は滅茶苦茶切れ味抜群ですし! あっ、それとついでにですが、今日新人冒険者の人たちもこのお店に来る予定なんですよ!」

「新人冒険者たち? 来てくれるのはうれしいが、どういう話の流れなんだ?」


 訊ねると、イヴァスがえへんと胸を張る。


「僕に面倒を見てほしいってギルドから頼まれまして。この前冒険者になったばかりの人たちで右も左もわからない人たちですから、僕が指導してあげているんです! いい武器屋があったら教えてほしいって言われたので、ここを教えたわけです」

「なるほど、それはありがとな」

「はい! まだ来てないみたいですし、ちょっと見に行ってきます!」

「……さっき休みって言ってなかったか?」

「僕以外の人たちですよー!」


 そういってイヴァスは店の外へと駆け出した。

 

「朝から、元気だね」

「……同意だな」


 アリシアが幼い子を見るかのような優しい表情を浮かべている。

 イヴァスの元気さは、まさに子犬のようだな。


 イヴァスが戻ってくるまでの間、俺とアリシアは受付で隣同士で座る。

 イヴァスから預かっていた剣のエンチャントの修復を行っていると、再びイヴァスが店へと入ってきた。

 今度は彼一人ではなく、複数人がいた。

 新人冒険者だろう。人数は三人。男性一人、女性二人だ


 店内に入った彼らは、並んでいる武器たちを見てイヴァスのように目を輝かせている。

 ……い、イヴァスが四人になったかのような威圧感がある。

 全員あのテンションで話して来たら、さすがに体力が持っていかれるぞ。


 そんなことを考えていると、イヴァスが俺の方を見てきた。


「この人たちが、新人冒険者の人たちです!」

「初めまして。俺はフェイクで、ここの鍛冶師をしている。まだ、冒険者になりたてなら……この辺りの剣がいいと思う」


 俺はエフレア魔鉄で作った剣たちが入っている樽を示した。

 その隣には同じ魔鉄で作ったナイフや短剣などもある。

 新人冒険者たちの装備を見た感じ、ここにあるものなら問題ないだろう。


 新人冒険者たちはこくこくと頷いて、その樽をじっと眺めている。


「自由に手に取って大丈夫だからな。手になじむものを使ってみるといい」

「は、はい!」


 元気の良い返事のあと、三人が剣を眺めていく。

 その後ろから俺とイヴァスは眺めている。

 それにしても、新人冒険者の教育か。


「冒険者ギルドからこんな依頼されるなんて、信用されているんだな」

「ふふ、僕の真面目さが評価されたみたいなんですよね! いい小遣い稼ぎになりますよ!」


 なんかそういわれるととたんに下品に聞こえてしまう。

 しばらく眺めていると、三人のうち二人は剣を、そしてもう一人は短剣を手に取った。


「ふぇ、フェイクさん! この剣がいいです!」

「オレもだ! めっちゃなじむ!」

「この短剣、なんかかわいくていいです!」


 いまいち女性冒険者のかわいいの基準はわからない。

 どれもかっこよさを追求したつもりだったのだが。


「イヴァス、今日は彼らと一緒に依頼でも受けるのか?」

「はい、そのつもりですね」

「それなら、とりあえず、一度その剣とか短剣で冒険してきてみたらどうだ? 気に入らないなら交換することも可能だからな」


 実際に使ってみたほうが、彼らとしても判断がつきやすいだろう。

 そう思っての言葉だったが、新人冒険者たちは驚いたように声をあげた。


「いいんですか!?」

「ああ。実戦で使ってみてってのもあるだろうしな。イヴァスなら信用できるしな」


 誰にだってこの対応をするわけではない。

 イヴァスという顔の知っている相手が同行してくれるからだ。


「ふふふ、ありがとうございますフェイクさん!」

「そういうわけでまた何かあったら店まで連れてきてくれないか?」

「わかりました! あっ、もうエンチャントも終わったんですか?」

「ああ。あんまり無茶な使い方するなよ?」

「わかってます!」


 俺がそういうと、彼らは代金を置いてからイヴァスとともに店から出て行った。

 去っていった彼らの背中を見て、アリシアがぽつりと呟く。


「あの対応で良かったの?」

「まあな。まだ別にそんなにお客さんがいるわけじゃないし、今後も利用してくれるかもしれないからな」


 一度程度ならば、エンチャントだってそうはおかしくならない。

 それに、多少問題が発生しても俺が修復すれば問題ない。

 エンチャントが壊れ、剣自体が破損しなければ、いくらでも修復可能なんだからな。


 それよりも大事なのは第一印象だ。

 新人冒険者たちがこの店を気に入ってくれれば、これから先成長してからもずっと利用してくれることになるかもしれない。


 そうなれば、さらに質の良い魔鉄で造った剣を使うことになる。

 もっといえば、オーダーメイドをお願いされることもあるかもしれない。

 エンチャントの手間賃とそれらを引き換えにできるのなら十分だ。

 アリシアが納得した様子で頷きながら、外へと視線を向ける。


「新人冒険者……なんだか無邪気で応援したくなるね」

「そうだな。イヴァスみたいに無茶なことをしないでくれって感じだな」


 イヴァスが変な指導をしなければいいのだが。

 もしもそれで怪我でもしたら心配だ。

 俺がそんなことを考えていると、アリシアがくすりと笑う。


「なんだ?」

「なんだか、子どもを見るお父さんみたいな顔してる」

「……子ども、ねぇ。いずれ俺にも子どもとかできるのかなぁ」


 それはただの独り言のようなものだったが、隣にいたアリシアがぼんっと顔を真っ赤にした。

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惚気る二人を見てると癒されます
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