第26話
あとがきにて詳しくは書きますが、2巻の発売が決定しました!
「ああ、そうだな。その金額分の価値は保証しているつもりだ。エンチャントによるメンテナンスを行っていけば、数年単位で使えると思う」
「凄い自信ですね」
「それだけ自信の持てる商品じゃなきゃ、店にはおけないからな」
しばらくエルナは顎に手を当てた後、こくりと頷いた。
「分かりました。こちらにします」
「わかった。それじゃあアリシア、頼む」
「うん」
会計をアリシアに任せるようにいうと、エルナは少し緊張した様子だった。
アリシアの立場を知っていればそうなるか。
エルナが三万ゴールドを渡し、アリシアがそれを確認したところでにこりと微笑む。
「はい。お金、確認しました。どうぞ」
アリシアがナイフを手渡し、エルナが受け取った。
エルナはナイフをじっと見てから、鞘から抜いた。
その刀身を眺めていた彼女は、初めて微笑んだ。
「……綺麗。大切に、します」
「ああ。でも、ナイフなんだから正しい用途に使ってくれよ。それと、ナイフのエンチャントは一か月を目途にしたほうがいいと思う。使用頻度が多かったり、切れ味が落ちてきたと思ったら持ってきてくれ」
「わかりました」
エルナは素直に頷いて、ナイフを腰のベルトに引っ掛けた。
表情も、柔らかくなっている。俺がそんな様子に笑みを浮かべていると、エルナが気づいたようで首をかしげていた。
「どうしたんですか?」
「いや、イヴァスの仲間たちはいい子ばっかりだなって思ってな」
「い、いい子ですか?」
「ああ。また今度、何か必要になったら来てくれ」
俺が微笑みながらそういうと、エルナは頬をわずかに染めながらうなずいた。
「わ、分かりました。ありがとうございます」
エルナはそれから逃げるように剣などを眺めに向かった。
イヴァスやウェザーも武器を眺めていたのだが、エルナの買い物が終わったのを見計らってか、イヴァスがこちらへと近づいてきた。
相変わらずの、眩しいくらいの笑顔だ。
「フェイクさん! そういえば、なんか最近やばい魔物が近くに出現したって話があったんですけど聞きました?」
やばい魔物?
俺は思わずアリシアと顔を見合わせるが、彼女も首を傾げていた。
「なんだそれは?」
「もうとにかくやばいんですよ!」
いや、伝わらん。
ウェザーが呆れた様子で額に手をやる。
「イヴァス、具体的に伝えないと分からないぞ」
「あっ、そうだね! フェイクさん、ホーンドラゴンって魔物、聞いたことありますか?」
ホーンドラゴン。鋭い角を持つ魔物だったか?
……他にも何か情報があったような。素材の質が良かったんだったか?
「聞いたことはあるけど、見たことはないな」
「はい。体が石でできていて、石とか食べる魔物です。体が特殊な石で出来ていて、生半可な攻撃じゃまるで通じないんです」
ああ、そういえばそうだったか。
イヴァスの説明で思いだした。
「……そういえば、そうだな。加工するにも魔鉄よりも難しいと聞いたことがある。ただ、その素材と魔鉄を組み合わせるとかなり良い武器ができるんだよな」
鍛冶師としては、やばい魔物という認識よりも良い素材を持つ魔物だという認識のほうが強かった。
それにしても、そんな魔物が近くに出現したのか。心配だな。
「とにかくやばいんですよ! そいつがいる限りこの街の平和は守られないんです! どうしましょうか!」
「どうするも何も、冒険者に頑張ってもらうしかないよな。頼むよ、イヴァス」
「僕じゃ無理です! なんでもSランク冒険者の方を呼んだとか何とかだそうですよ!」
「Sランク冒険者かぁ」
冒険者にはランクがあるのだが、Sランクは冒険者の中でも最高ランクだ。
確か、国内でも両手で数えられるほどしかいなかったはずだよな。
それほどの冒険者に依頼するなんて、よほどの緊急事態なんだろう。
……ホーンドラゴン。そんなに討伐難易度が高かったのか。
「そうですよ! 数少ないSランク冒険者ですよ! 一体どんな人が来るんでしょうかね!?」
「まあ、誰が来たとしても、そのSランク冒険者がどうにかしてくれるのを待つしかないよな」
「そうなんですけど……僕は心配なんですよ! 突然ドラゴンが街に来たらどうしましょうか!?」
こういうときの対応って……領主がするんだよな?
俺は隣にいたアリシアへと視線を向ける。
彼女は頬を引きつらせていた。
「もしも町が襲われたらどうするんだ?」
「持てる兵力で戦う……しかない。冒険者にも依頼を出して、半強制で討伐するしか……ない」
アリシアの絞り出すような声に、イヴァスが「うぇ!?」と声を上げる。
「ふえええ!? アリシア様! 僕まだDランクの雑魚雑魚冒険者ですよ! 死んじゃいます!」
「それなら、今のうちに街から逃げるのも手……かも?」
「うわああ! ウェザー、エルナどうしよう!?」
「どうするも何も、来たら返り討ちにするしかないでしょうが! ああ、もううるさいわね!」
むすっとした様子でエルナが声をあげる。
……ホーンドラゴンか。
何事もなければいいんだけどな。




