第25話
でもまあ、アリシアと結婚できるのならこのくらいは苦ではない。
「まあ、オレがとやかく言うことじゃないだろうとは思うけど、ゴーラル様はどちらかというとあまり貴族の上下関係を気にされない方で、たびたび貴族の間では問題になることもあるから……ま、多少は意識した方がいいと思うよ」
確かに、レベルトがいう通りゴーラル様はあまり貴族らしくない人だ。
平民の俺からすればとてもありがたいのだが、ゴーラル様を基準に貴族の方と話をすると、痛い目を見るかもしれない。
「ありがとな、レベルト」
「いやいいんだ。それにしても、鍛冶屋とは君もどんどん立場を獲得していくね」
「……ゴーラル様が世界一の鍛冶師になれっていうからな。俺の夢でもあったし、いい機会だと思ったんだ。ここから世界一になれるように頑張るよ」
「それはまた大きく出たね。まあ、君なら何とかなるだろう。オレも世界一の剣士になれるよう、頑張るつもりだ。お互い頑張ろう」
「レベルトも、頑張れよ」
握手をかわしながら、頷いた。
「それじゃあ、オレはこの辺で。また、あとで遊びに来るよ」
レベルトはウインクを残して去っていった。
ふう、とアリシアがほっと息を吐いていた。
やはり、苦手なようだ。
「アリシア、そんなにレベルトが苦手なのか?」
「……ちょっと、昔にあって」
「昔に?」
「うん。まだ、お互いそんなに立場とか気にしてないとき。レベルトとは幼馴染だったんだけど……虫投げつけられた」
「……」
……そっか。レベルトとはそれなりに関係があったのか。
ていうか、二人は幼馴染なのか。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。店に集中しようか」
「うん」
ちょっと嫉妬してしまった。幼い頃のアリシアを知っているなんてずるい、と。
それは男としてださい。
堂々としていないとな。
店を開いてから三十分ほどが経過した。
お店が人であふれる……ということはない。
それどころか、まだ誰も来ていない。
それもそうか。
一応鍛冶ギルドと冒険者ギルドにお願いして、本日オープンするという張り紙はさせてもらってはいるのだが、そもそもそれらを見ている人が少ないはずだ。
文字が読めない人のために、分かりやすい絵と地図付きで鍛冶が開くことも伝えてはいるのだが、だとしてもオープンした瞬間来てくれるわけもないか。
特にやることもなく、俺が商品の一画を眺めているときだった
二人の若い男性、そしてその奥から一人の若い女性が入店してきた。
「イヴァス、ウェザーおはよう」
入ってきたのはイヴァスとウェザーだ。
彼らと一緒にいる女性は、知らない顔だ。
彼女はツンとした様子で腕を組んでいる。
どこか、接しづらい雰囲気だ。
冒険者然とした格好から、恐らく彼らの仲間なのではないかと予想はできる。
……もしかしたら、武器を見に来たのだろうか? ただ、彼女は魔法使い、らしさのある服装でもある。
「おはようございますフェイクさん! それとアリシア様も!」
笑顔とともに片手をあげたイヴァスに、アリシアが微笑を浮かべる。
「うん。おはよう。今日はどうしたの?」
「今日はこっちの子――エルナっていうんですけど、彼女の武器を探しに来ました」
エルナと紹介された女性をじっと見る。
身に着けている服はローブのようなもの。
それこそ旧時代の魔法使いが被っていたような帽子を身に着けている。
……外見だけで判断すれば彼女は魔法を軸に戦う冒険者のようにしか見えない。
何より、彼女は杖を持っている。
杖も魔鉄を用いて作る。
というのも、魔鉄が魔力を伝達しやすい。魔鉄製の杖を使うことで、魔法の威力を底上げできるからだ。
杖を作る場合は、ほかにも魔力を伝達しやすい素材を組み合わせる。
俺も鍛冶師として依頼されれば作ることもできるが。
魔法使いの人たちが利用する魔法を補助するための魔道具をいくつか持っている。
それらは対魔物への特化能力を高めるものだ。
エルナはちらと俺の方を一瞥してから、商品を眺めていた。
俺はそんな彼女へと問いかける
「エルナは魔法使いだよな? 悪いな、まだ魔鉄製の杖は置いていないんだ」
「作れるんですか?」
丁寧な言葉遣いではあるが、どこか棘のある声だ。
「オーダーメイドになるから多少金額は上がってしまうが……」
「そうですか。それはまたあとで相談させてください。今は護身用と解体で使える程度のナイフを探しています」
「そうか……それなら、こっちの商品とかはどうだ?」
俺はイーレア魔鉄で製作したナイフが並ぶコーナーへと彼女を案内する。
「ここですか」
「ああ。この辺りが無難なところだと思うけど、どう?」
イヴァスたちと一緒にいるのなら、俺が示した三万ゴールドの辺りがちょうどいいだろう。
「……そうですね」
ナイフが並んでいる棚を覗き込むようにエルナは腰を折った。
同じように作ったナイフたちだけど、微妙にデザインや質が異なっているため、選ぶ側も力が入るというものだ。
素材に使っている魔鉄だって、あくまでイーレア魔鉄と呼ばれているがすべて同じ質のものではない。
例えばイーレア魔鉄の中で点数をつけるとしても、100点のものもあれば0点のものもある。
鍛冶を行う俺自身にも言えることだ。
同じ体で鍛冶を行っているからといって、まったく同じものが造れるわけではない。
その日、その時の状態によって多少上下してしまう。
もちろん、それぞれ長所、短所とあるがどれも店に並べている商品は、売れるものだと思っているから置いているわけだ。
「このナイフ、30000ゴールド、ですか?」
商品棚には目安となる金額が張られている。
現状店員が俺とアリシア、それとレフィくらいしかいないためだ。
毎度交渉していたらさすがに対応ができない。
それに、今日は初日で俺も店側にいるが、基本的に俺は奥の鍛冶工房にいようと思っている。




