第22話
「……れ、レフィ。変なこと言ってたよ、ね」
「き、聞こえていたのか?」
「扉、少し開いてた……から。たぶん、レフィ……わざとやった」
恥ずかしそうにしていたアリシアは、それからゆっくりと扉を開けた。
寝間着のアリシアは……何度か見たことはあったけど、新鮮に見えるな。
「フェイク、そこにずっといたら、体冷えちゃう……よ。こっち、きて」
照れたように笑い、手招きしてきたアリシア。
……可愛い。
俺の理性をがりがりと削ってくるアリシアは……ずるい。
俺はこくりと頷いてから寝室へと入った。
中にはダブルベッドが一つ置かれていた。元々、ダブルベッドを置くような想定がされていた部屋ではないようで、それだけで部屋の半分近くが埋まっている。
部屋としてみると窮屈な感じではあるが、寝るだけと考えれば悪くない。
「ていうか、いつの間にベッドを運んでいたんだ?」
「……今日、私たちが休憩している隙に部品を持ってきて組み立てたって。レフィやカプリたちが……」
「……マジか」
そういえば、何かこそこそしていたなと思っていたけど、こんなことのためにか。
アリシアは恥ずかしそうにベッドの上に乗っていた。
俺もそちらに近づき、ベッドに腰掛ける。布団が俺の体重の分沈むと、アリシアが少し緊張した様子でこちらを見てきた。
「寝袋もあったし、俺はそっちで寝ようか?」
「ダメ。寝袋は負担が」
「いや、でも宮廷鍛冶師の時は別にそんなことなかったしなぁ」
実際、仕事をしたまま雑魚寝のようになることも多かった。
懐かしい思い出だ。
むしろ、寝袋があるだけ、こっちの方が環境はずっといいだろう。
早起きとかも強いられなくてすむしな。
そんなことを考えていると、アリシアがじとーっとこちらを見てきた。
「フェイク。なんだか懐かしがっているけど、それはいい記憶じゃない」
「……まあ、そうだったな」
宮廷時代のおかげで、なんだかんだ体がタフになったのは事実だけど、この能力を身に着ける必要があったのかどうかは疑問の残るところだ。
……なんだか、アリシアの反応を見ていると俺は少し落ち着いてきた。
アリシアが本気で眠れなさそうなら、俺はやはり別室で寝た方がいいだろう。
そんなことを考えていると、アリシアが俺の隣に座った。
それから、頬を朱色に染めたままこちらを見て微笑んだ。
「嫌っていうわけじゃないんだよ? ただ、恥ずかしいだけ……だから。……フェイクとは、できるならずっとくっついていたい……から」
……ま、真面目な顔でそういうことを言わないでほしい。
先程落ち着いてきたと言っていた体が、再び熱を持ってしまった。
「俺も……少し緊張はしてるけど、嫌じゃない。アリシアと同じ気持ち、だな」
「……そ、そっか。良かった。……それじゃあ、そろそろ寝よっか?
「そう、だな」
そもそも、明日朝早くから活動するために今日はここに泊まったのだ。
俺は緊張を痛みで誤魔化すために唇をかんでから、頷いた。
部屋につけられていた魔石の照明を落とし、俺たちはベッドで横になる。
すぐにアリシアも隣で横になった。
俺はアリシアに背中を向けるように入ったまま、そこでぴたりと体を硬直する。
こ、これが限界だ。これまで女性とこんなに近くなったことがないんだ。
第一、相手は俺がずっと好きだったアリシアなんだ。
こ、こんなの無理。誰か助けて……っ。いや、助けられたらせっかくの幸せな時間も失ってしまうじゃないか。
ああ、まずい。頭の中ぐちゃぐちゃだ。
混乱していると、背中がつつかれる。
「フェイク。顔、見たいな」
耳元に控えめな声が届いた。
アリシアのささやくような声に、俺は首だけを動かし、彼女の方を見た。
アリシアはこちらを見ていて、俺と目が合うと嬉しそうに微笑んだ。
「顔見たいって……別に見なくても寝られる……だろ?」
「……見たい」
少し拗ねたような声だ。
……で、でもアリシアの方を向いてなんて絶対に寝れる気がしない。
そう思っていると、
「えい」
「ほわ!?」
悪戯っぽい声が聞こえた次の瞬間、背中に柔らかな感触が触れた。
アリシアが抱きついてきたのだ。
その衝撃に変な声が出てしまった。
いろいろと柔らかな部分が触れていて、俺は彼女へと叫んだ。
「アリシア……っ!」
「たまには、こうやってくっつきたかった」
「……そ、それは――」
「ダメ……?」
……だから、その言い方はずるいって。
俺は小さく息を吐いてから、抱きついてきたアリシアの手を握り、そっと離す。
それから、彼女の方へと向いた。
向かい合って分かった。暗闇でも分かるほどに、アリシアの顔が赤いことを。
それでも、こうしてくっつきたい……ということなんだろう。
俺は彼女の方に腕を伸ばし、それからその体を優しく抱きしめた。
「……フェイク」
「……俺もこうしたいって思ったことは何度もあるんだ。……駄目か?」
「……ううん、嬉しい」
しばらくアリシアを抱きしめていると、彼女はうとうととしてきた。
その様子を見ていると、俺も段々と眠くなってきた。
明日も早い。俺はそのまま眠気に身を任せ、目を閉じた。




