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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第二章

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第18話




 工房内に置かれた魔鉄から、イーレア、エフレア魔鉄を取り出す。

 イーレア魔鉄を核として、足りない分をエフレア魔鉄で補うという形だ。

 いつものように熱で溶かし、型へと流し込む。


 ひとまずそれで板を形作ったあと、それを金床へと移す。

 板を金床に乗せ、それから魔力で熱を込め、小槌を振り下ろしていく。


 魔鉄の質を最大限に引き出すよう、魔力情報を確認し、叩いて壊し、修復する。

 それによって最初よりも随分と質の上がった魔鉄たちを確認したところで、ナイフの形へと整えていく。


 そこから、完成まではそうかからない。

 形を整えた後、魔力で冷やし、風魔法で刃を研ぐ。


 残っていた魔鉄を使って、ナイフの型に合わせて鞘を作り、ナイフ自体は完成だ。

 魔鉄を取り出し、魔力情報を書き換え、多少の柔らかさを与えたものを、柄部分にはめる。


 柄の部分に魔物の皮をまきつけ、これで本当に完成だ。

 予定していた一時間ほどでナイフは出来上がった。


 俺は魔力で土人形を作り出し、その腕部分を斬りつけてみた。

 すっとナイフは土を斬り裂いた。

 切れ味も問題ないだろう。


 出来上がったナイフを鞘へとしまい、背筋を伸ばす。

 鍛冶工房入り口の扉を開けると、何やら二階からいい匂いが漂ってきた。


 ……アリシアの料理も出来上がる頃かな?

 そう思って俺が鍛冶工房の扉を閉めようとした時だった。


「!?」


 一瞬、何か陰のようなものがちらついた。

 驚いた俺は閉じかかっていた扉を開き、そこを凝視する。

 ……しかし、何もなかった。


「見間違い、か」


 口に出したが……俺の脳は否定する言葉を吐いていた。

 ……そこに、男のような人がいたように見えたんだ。

 まさか、な。


 ありえるはずがない。

 きっと疲労による見間違いだろう。

 俺はそう思い込んで、鍛冶工房から二階へと上がった。



 俺が二階へと上がると、アリシアが驚いたようにこちらを見てきた。

 その驚愕ともいえる表情に、俺は先ほどの幻聴が脳裏によぎった。

 まさか、アリシアも何かを聞いたのだろうか? 彼女に何かあってはいけない。

 俺が心配になってアリシアへと近づくと、アリシアの口がゆっくりと動いた。


「フェイク……もう鍛冶は終わったの?」


 ……え?

 驚いた様子でじっと俺を見てくる彼女に、俺はわずかな戸惑いを覚える。

 俺がこんなに早く鍛冶を終わらせたら驚くの? なんで?


「まあ、そんなに時間がかからないものを作っていたんだ」

「そうなんだ。……もう呼びに行くものだとばかりに構えてた」

「いやいや、そんないつも呼びに来てもらうわけないだろ?」

「だいたい、いつも呼びに行ってた」

「……」


 そ、そうだったかな?

 誤魔化すように頭をかきながら、アリシアの手伝いを始めた。

 といっても、皿を並べるくらいでほとんど料理は完成していたけど。

 今日の昼食はパンとシチューのようだ。パンは購入済みのものを温めただけだが、アリシアがシチューを作ってくれた。

 パンをこれにつけて食べるそうだ。

 テーブルに料理が並んだところで、俺はアリシアと向かい合った。


「レフィとや兵士の人たちもそろそろ休憩してもらったほうがいいよな」


 一応、事前にお昼には休憩していてもいいとは話している。

 ただ、兵士は一度に全員休みにするわけにはいかないらしく、どういう順番で休むかについてはまだ聞いていなかった。


 兵士たちで順番に休憩はとるとは言っていたけど、心配だ。


「大丈夫。そっちも自由にしててって伝えてある」

「……さすがだなアリシア」

「別に、このくらいは普通」


 アリシアは笑顔とともに席へと座った。

 俺も、彼女の向かい側の席に腰かけ、お互いに手を合わせた。

 ……さて、食べようか。

 アリシアの手料理は、これが初めてだ。

 まず、アリシアがどのくらい料理ができるのかも知らなかったため、俺としては味に対して非常に興味と、不安がある。


 不安というのは、アリシアに対してというよりも貴族に対してだ。

 貴族の方々は炊事洗濯などの家事全般を使用人に任せるという意識があった。

 アリシアにも同じような認識だったため、どのくらい料理ができるのか分からなかった。


 俺がじっとシチューを見ていると、アリシアもじっと俺の様子を窺っていた。

 まだ彼女も食事に手をつけていない。俺の反応を待つかのように待機している。


 このまま、待ち続けるにはいかない。せっかくのシチューが冷めてしまうからだ。

 いざ……食べようか。

 まずはアリシアの料理そのものを楽しむために、シチューへとスプーンを入れた。

 そして口に運んだ。


 ん!?


「お、美味しいな……」


 野菜などがしっかり煮込まれているのだろう。それらの味がしみだしていて、本当にうまい。

 素材がいいのももちろんあるだろうが、アリシアが丁寧に調理した結果だろう。


「ほ、ほんと? 口に合ったら、良かった」


 ほっとした様子でアリシアが胸に手を当てていた。

 それから、アリシアもシチューを食べ始めた。

 パンをつけても食べてみる。これが滅茶苦茶合うな。

 パンはそれなりに硬めのものだったが、それがシチューを吸って柔らかくなるんだ。

 うまい……うますぎる……!


 俺はパクパクとそれを食べていく。

 気づけばパンが残り少なくなってしまい、アリシアにおかわりをもらうほどだ。


「美味しそうに食べるね、フェイク」

「いや、だって本当にうまいんだからな。アリシアは天才だよ」

「でもなんか驚いてなかった?」

「い、いや……そんなことないぞ?」


 気づかれていたのか? 俺は誤魔化すようにそっぽを向いた。

 本当は料理できるのか不安がっていたなんて……そんな失礼な考えを勘繰られるわけにはいかない。

 アリシアはしばらく疑うようにこちらを見ていたが、それから小さく息を吐いた。


「このくらいの料理は、誰だって覚えてるよ」

「え? そうなのか? 貴族の人も料理とかするんだな」

「学校で令嬢としての学習がある。その中の一つに、料理もあるから。みんな、知識とかは持ってるはず」


 するかしないかは別として、だそうだ。

 趣味の範疇や、それを超えて店を出すような人もいるのだとか。

 

 俺がシチューのおかわりをもらうと、アリシアはそれを自分の手元に置いた。

 あれ? どうしたんだろうか?

 疑問に思って首を傾げていると、彼女はスプーンで一口分をとってからそれを冷ますように息を吐いていた。


「はい、あーん」

「……い、いきなりなんだ?」

「一度……やってみたかった。食べて」


 アリシアが照れ臭そうにしながらも、こちらにスプーンを向けてきた。

 こんな経験は初めてで、多少の気おくれをしてしまった。

 しかし、アリシアは照れた様子ながらこちらにスプーンを向けたままだ。


 俺も恥ずかしいが口を開いた。

 ゆっくりとアリシアのスプーンが動き、口の中へと入ってきた。

 くわえるように口を動かし、シチューを流し込んだ。

 

「……どう?」

「ああ、うまい」

「よかった」


 ほっとしたようにアリシアが笑ったのを見て、俺も一口分のシチューをすくった。


「ほら、アリシアも食べるか?」

「そ、それじゃあ……えへへ」


 真っ赤な顔で、けれど嬉しそうに笑うアリシアを見て、俺はほっとしながら彼女の口元に運んだ。

 スプーンから伝わる彼女の口の動きに、多少の緊張を抱く。


「そ、それじゃあ次は私だね」

「……え、ま、まだやるのか?」

「……だめ?」


 嬉しそうな上目遣いにそういわれて、断れるはずもなかった。 

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― 新着の感想 ―
[一言] 呪われてしまえ!
[一言] ん?爆発しろ?(笑)
[気になる点] 男の影? ……が幸せ空間で悪霊や怨霊にならなきゃ良いけども。 自分の影? 精霊の悪戯? 真相は如何に?
感想一覧
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