第8話
武器に付与するエンチャントは、主に武器の切れ味、頑丈さを強化するものだ。
稀に、剣に属性を付与したいという人もいるのだが、自身の魔力を伝達させたほうが効率が良いため、属性付与のエンチャントを頼まれることはほとんどない。
俺は剣の腹をじっと眺めながら、その様子を観察していく。
……凄まじい魔力を帯びている。普段宮廷で行っていたエンチャントとは比べものにならないほどのものだ。
これほどのエンチャントはそれこそ騎士団長等の一定以上の格を持つ人間の武器に対して施すものだ。
エンチャントは、細かい文字を書きこみ、それらの組み合わせによって行っていき、これらをまとめてプログラムと言うのだが……これだけ気合いの入ったプログラムとなれば一日二日では作れないだろう。
二日ほどはかけて作ったものなのだろう。
「期限は一週間だ。それで修復できないのならばこの屋敷を――」
「修復だけなら、それほど時間はかかりません」
「何?」
ぴくり、とゴーラル様が眉尻を挙げた。
俺はすぐに剣に手を当て、それから修復を行っていく。
元々のプログラムがある程度残っているので、修復は難しくない。削られているのは、部分部分のものだ。
例をあげるとするならこれは文章のようなものなのだ。
『〇〇はごはんを食べた』という文があるとして、この〇〇の部分が壊れてしまった部分となる。そこに正しい文字を入れることで、修復が可能となる。
前後のプログラムを見れば、おおよそ完成の形が見えてくる。もちろん、完璧に同じものを再現することは難しくても、似たような性能のものを作ることは出来るだろう。
このプログラムの読み取りなどが、鍛冶師の腕が試される瞬間ではある。
基本的な形は出来上がっているので、プログラムの書き込みはすぐに完了した。
三分ほどで修復は終わり、俺は鞘へと剣を戻してゴーラル様の方へと差し出した。
「どうぞ、ご確認ください」
ゴーラル様は何も言わない。俺の手から剣を掴んだ彼は、それからゆっくりと鞘を抜いた。
そして、剣の状態を確かめるように何度か振る。
……ゴーラル様は、プログラムを見ることが出来るのだろうか? これは生まれ持っての才能が関わってくるため、分からない人は分からないものだ。
何度か剣を振ったゴーラル様の表情が険しくなっていく。……失敗はしていなかったと思うが――。
「まさか、これほどまでの腕とはな……」
「……ありがとうございます」
「だ、だが……まだ娘の夫として認めきったわけではないからな」
きっとゴーラル様は頬を膨らませるようにこちらを睨みつけて来た。
……かなり厳格そうな人だと思っていたが、子どもっぽいところもあるようだ。
「これからも、精進してまいります」
「ああ、励むといい。屋敷内にある工房は自由に使って構わない。必要な材料があればいくらでも使っていいし、足りなければ言ってくれ。用意しよう」
「か、鍛冶をしても良いのですか?」
「ああ。おまえは鍛冶師だろう?」
……エンチャントばかりさせられていた俺にとって、鍛冶が出来るというだけでもたまらなく嬉しかった。
新人の料理人が皿洗いを任されるように、新人鍛冶師はエンチャントが任されることになる。
「ありがとうございます!」
「屋敷にいる騎士たちからも武器の依頼などはあるかもしれない。まあ、その辺りはメイドにも話をしてある。やりたいことがあればそちらに聞いてみてくれ。オレは少し用事があってしばらく屋敷を離れる」
「分かりました」
「オレがいないからといって、娘といかがわしいことをするなよ」
「し、しませんよ!」
「……ふん。その言葉、信じておくぞ」
じっとこちらを見て、ゴーラル様は部屋を立ち去った。
俺はちらとアリシアへと視線を向ける。彼女は嬉しそうに微笑んでいた。
「良かった……とりあえず、お父さんを説得できた……ね」
「そう、だな。ただ、まだまだ認めてはくれていないみたいだったからこれから頑張らないとな」
「……でも、お父さんがあそこまで褒めたのは初めてだったから、かなり好感触、だと思う」
「そっか」
アリシアに助けられた恩を、少しは返せただろうか?
廊下に出ると、一人のメイドがすっと頭を下げて来た。
「お初にお目にかかります。屋敷の案内をさせていただく、レフィと申します」
現れたレフィというメイドとともに、俺は屋敷内を歩いていった。
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