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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第二章

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第17話


 俺は建物の前で足を止めた。

 じっと見上げると、そこには看板が出来上がっていた。


 『フェイクの鍛冶工房』と書かれた看板を見て、俺は自分の店を持ったんだという自覚に襲われた。

 看板以外は何も変わっていないが、この看板だけで随分と雰囲気が変わった。


 今日からここは、ベストルの鍛冶屋ではなく、俺のお店となった。 

 ゴーラル様と話をしてから、店の購入が完了するまでにはそれなりに時間はかかったが、これで店の購入はできた。

 

 店の代金には、俺がこれまでゴーラル様に納めていた分の金額が使われている。

 足りない分に関しては、ゴーラル様が補填してくれた。

 感謝してもしきれない。ここでの稼ぎは、基本的にゴーラル様に納めようと思った。


 看板を見上げていると、アリシアが店内からこちらへと向かってきた。


「フェイク。外の掃除終わったの?」

「え? あ、ああ……そうだな」


 あまり掃除に熱が入っていなかったけど、一応掃除自体は終わっている。

 俺の返答を聞いてか、アリシアは小さく息を吐いた。


「また見とれてたの?」

「……そりゃあな。まさかこんな立派な店を持つことになるなんて思ってなかったしな」

「でも、宮廷に行く前は店をやってたんだよね?」

「あれは店っていうか……近所で困っている人がいたら鍛冶をするって感じだったからなぁ」


 たまに訪れた冒険者に剣を作っていたが、基本的には家庭で使う道具を作るのが仕事だった。

 武器屋、というよりも何でも屋に近かった。

 それに、店ではなく自宅だったしな。

 この店とは、随分と違う。


「そうなんだ。外の掃除が終わったのなら、中の様子確認してもらってもいい?」

「ああ、分かった」


 アリシアとともに店へと入る。

 入ってすぐに、また表情が緩んでしまう。

 店内には、すでにたくさんの武器が並んでいる。


 アリシア、レフィ、それにカプリたちが協力してくれたこともあって、商品の陳列はほぼ終わっている。

 カプリたちはあくまで護衛なのだが、護衛以外にもこうした部分で、色々協力してもらっている。


 また今度、剣のプレゼントでもした方がいいかもしれないな。


「どうかな?」

「ああ、悪くないと思う」


 店全体の掃除もしっかりとされている。こちらはレフィが中心になって仕事をしてくれた。

 さすがにメイドとしての経験もあるためか、部屋の掃除は完璧だ。


 俺は壁に飾られている剣をちらと見た。そちらは、基本的にすべて質の良い剣たちだ。

 店内の剣はそれだけではない。棚が並んでおり、そこに剣や短剣が飾られている。


 俺が剣などを扱う理由は、単純に俺の作製した経験が一番多いからだ。

 冒険者の中でも剣の使用者がもっとも多いため、とりあえず剣を並べておけば間違いはない。

 そして、比較的質の低い剣たちはまとめて樽に突っ込んである。


 樽内の剣は値段も一律で固定している。一応、質の良し悪しはあるが、微々たるものだ。

 アリシアは近くにあった湾曲した剣を手に取った。

 アリシアが手に取った弧を描くような刀身は、通常の剣と違って少し癖がある。


「フェイクって色々な剣を作れるよね。並べてるときに見て、びっくりしちゃった」

「まあ、一度見たことがあるものを自分なりに再現しているだけだよ」


 だから、見たことがないものは作れない。

 ある意味では、俺の弱点かもしれない。

 何かしら、参考になるものがないと、俺は良い剣が造れないのだ。


「フェイク、凄い」

「そうか? 誰だって、何かを参考に物を作るんじゃないか?」

「でも、どれも質が良い。見様見真似、ってレベルじゃない」


 ……そう言ってもらえるのなら嬉しい限りだ。

 まったく同じものは作れないが、一度見たものに自分なりの技術を乗せて作るようにしている。

 そのおかげか、どれも良い品質の剣が出来上がってくれている。


 俺が苦笑していると、アリシアが首を傾げてきた。


「もうお店の準備ってほぼ完了……でいいかな?」

「確かにそうだな。あとはいつ店を開くかってことだけど……次の市が終わってからでいいか」

「うん。ちょうどいい時期だと思う」


 今週末は市にいって、顔なじみの人たちにお店を紹介すればいいだろう。

 そこで、どれだけの人たちにアピールできるかで今後の店の客入りも決まってくるだろう。


「来週から忙しくなるね」

「そうだな。アリシアも本当に店番するのか?」

「当たり前」

「……ちょっと、心配なんだけどなぁ」

「大丈夫。護衛の人たちもお店手伝うって言ってた」


 カプリたちか。能天気に笑う彼らが脳裏に浮かぶ。

 彼らが一緒にいてくれるのなら、確かに心強い。

 それに、現状店員の数も限られてしまうので、手伝ってくれるなら嬉しい限りだ。


 店員は現状俺、アリシア、レフィくらいしかいない。

 店員を雇おうかどうかも考えたけど、そんなにお客さんが来なかったら別に俺たちだけでも足りるしな……。


 とりあえず開店してしばらくは俺たちだけでもいいと思うのだが、今後をどうするかについては検討中だ。


 店内にある受付横から奥へと向かう。廊下が続き、いくつかの部屋があるのだが……その一番奥まで歩くと鍛冶工房へと繋がっている。


「フェイク、今から鍛冶する?」

「ああ、ちょっと造ろうと思う」

「分かった。私、お昼の準備してくるから」

「アリシアがか?」

「私も、料理の勉強はしたことあるから。任せて」


 アリシアが微笑みながら、鍛冶工房を出た。

 二階は居住スペースであるため、もちろんキッチンなどもある。

 ……アリシアの手料理か。

 初めて食べることになるが……大丈夫だろうか? 不安と期待が入り混じっていた。


 とりあえず、俺は鍛冶に集中しようか。

 鍛冶工房自体は光が入るので暗くはないのだが、それでも石造りであるためにどこか圧迫感はある。


 しかし、俺はこの感じが好きだ。

 いくつか古いものなどは新調したが、多くの道具は問題なく利用できる。

 俺は部屋に置いてあった小槌を握る。


 最近も、時間を見つけては鍛冶をしていたが、この工房では初めてだ。

 何を作るか……。

 アリシアの料理がどれほどかかるか分からないが、言っても一時間もかからないんじゃないだろうか?

 それなら、なるべくすぐに作れるものがいいよな。


 短剣や、解体用のナイフでも作ろうかな。


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