第15話
外に出たところで、アリシアの方を見ると少し考えるような顔になっていた。
それは俺もだ。
調査こそしたが、やはりこれだけ色々な人に言われると気になる部分はある。
「フェイク……やっぱり、あのお店は何かある」
「そうだな」
心配や不安はある。
例えば、本当に幽霊が出るとか、何か悪影響が出るとして……。
俺だけなら別にいい。それは自己責任で片づけられる。
ただ、もしもアリシアにまで何か悪影響が出てしまったら――。
「アリシアは、どう思う? あそこはやめたほうがいいと思うか?」
「あそこの建物は怖いけど……お店としてみたら捨てがたいのは、私もずっと思ってる。それはたぶん、この街で暮らす商売人ならみんな考えてると思う」
それは、確かにそうだよな。
それでも、これまで持ちてがつかなかったのはそれだけ噂の悪影響があったからだろう。
俺は頭をかきながら、しばらく考えていた。
そんな俺の手をアリシアが掴んできた。
「……とりあえず、街でも歩く?」
「……そうだな」
色々と考えてはしまうが、それでもあれ以上の物件は見つからない。
何も起きないことを祈るしかないだろう。
それから一週間ほどが過ぎた。
俺は休みの日には市で商売をしながら、訪れるお客さんたちに店の紹介をしていた。
これで、お客さんたちを誘導できればいい。
そのまま食堂へと向かい、ゴーラル様と食事をとることになる。
料理が運ばれてくるまでの時間に、ゴーラル様がこちらを見てきた。
「今日、あの物件の購入が完全終了した。これでもう店として使っても問題ないぞ、フェイク」
「……あ、ありがとうございます!」
ゴーラル様に深く頭を下げる。それから顔を上げると、彼はじっとこちらを見てくる。
「まあ、無理をしない程度に頑張れ。アリシアから聞いているが、おまえはすぐに無茶をするみたいだからな」
「べ、別にそんなことは……」
「自分の体調管理ができてこそ一流だ。それを理解しておけ」
「……はい」
無茶、か。
確かに、俺は誰かに相談しないで無茶をしてしまうことがある。
ゴーラル様やアリシアを心配させないためにも、気をつけないとな。
「そういえば、ゴーラル様。少し確認したいことがあるのですが、よろしいですか?」
「なんだ?」
「今俺の身の回りの警備に当たっている兵士たちの剣などを新調したいと思っているのですが、それは俺の判断で行ってもよろしいですか?」
「兵士たちの剣を?」
「はい。皆、支給された剣のみを使用していたので……今後、アリシアが店の手伝いをするのであれば、より強固なものにしたいと思いました。あくまで、俺の鍛冶の練習ついで、という名目で良いので新調させてもらってもいいですか?」
兵士たちには、一律で同じような質の剣を支給しているそうだ。
普通に生活している上では特に大きな問題はないのだが、さっき言ったように今後のことを考えると不安もある。
あとは、単純に……お礼の意味もある。
兵士たちに、剣のプレゼント、というわけだ。それを喜んでくれるかどうかは分からないので、本人たちにも確認してからにしようと思っているが。
特に、俺の身近の警備をしてくれている三人組がいる。彼らに剣をプレゼントしようと思っていた。
「ああ、そのくらいなら別に気にしなくてもいい。ただ、あまり過剰な装備を渡しすぎないようにな」
「……分かっています」
都度、報酬という形でより上質の剣を渡していった方がいいだろう。
俺たちの話が終わったところで、食堂へと食事が運び込まれてくる。
それを確認したところで、ゴーラル様が俺たちを見てきた。
「他に何か聞きたいことはあるか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「気にするな。それじゃあ、夕食にしようか」
ゴーラル様の声に、俺は頷いた。




