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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第二章

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第14話



 冒険者ギルドのすぐ近くにある建物の前で、俺たちは足を止めた。

 ここが、鍛冶ギルドだ。

 冒険者ギルドと建物の外観はそれほど変わりない。


 違いがあるとすれば、看板くらいだろうか。

 あとは、人の出入りが冒険者ギルドに比べて少ない。

 冒険者ギルドはほぼ毎日冒険者が訪れるが、鍛冶ギルドはわざわざ毎日人が来るような場所じゃないしな。


 基本は俺のように、たまに用事が出来れば行くくらいだろう。

 アリシアとともに中へと入る。

 まばらに人はいるが、賑わいはない。


 落ち着いた空気がそこにはあった。

 鍛冶ギルドに入った俺たちに待ち受けていたのは、受付だ。

 冒険者ギルドに比べて受付自体の人数も少ない。

 ちょうど、待っている人もいないので俺は真っすぐに進んだ。

 受付の女性がすっと頭を下げてきた。


「いらっしゃいませ。本日はどのような御用でしょうか?」

「この街で新しく鍛冶師として店を開くつもりのフェイクだ。バーナスト家の鍛冶師、といえば伝わると聞いていたのだが」


 俺はゴーラル様から事前に聞いていた情報を伝えた。

 すると、受付の女性はすぐに理解したように頷いた。


「ゴーラル様より話は聞いております。それではこちらの用紙に記入お願いします」

「ああ」


 身分証明などどうしようかと思ったが、隣にいるアリシアが何よりの証拠となったようだ。


 あとでお礼を伝えなければならない。ゴーラル様には感謝してもしきれないな。

 俺は受付に差し出された一枚の紙を受け取り、そこに必要事項を記入していく。


 店の予定地もあり、俺はベストルの鍛冶工房について書かせてもらった。

 

「……あそこのお店なんですね」

「ああ、そうだ。やっぱり色々話は聞いているのか?」

「ええ、まあ。鍛冶ギルドでも多少は話題に上がりますね……」


 受付の引きつった笑みは、ゴーラル様と同じかそれ以上に怯えているようにも見えた。

 ……一応調べた情報では問題なかったし、大丈夫だとは思うが。

 

 ここは鍛冶ギルドだし、必要以上に誇張されている可能性もあるよな。

 それ以外の部分では、特に記入に関しては問題ない。

 すべて書き終わったあと、俺は女性へと紙を差し出した。


「これで、問題ないか?」

「問題なさそうですね。一度、ギルドリーダーに確認を取ってきますので、少々お待ちください」

「分かった」


 受付は一礼とともに去っていった。

 受付がいなくなったところで、俺は小さく息を吐いた。

 

「お疲れ、フェイク」

「これで後はギルドリーダーの許可が下りればいいんだよな?」

「うん。たぶん大丈夫。許可が下りなかったことはないみたいだから、大丈夫だと思う」


 しばらく待っていると、受付の女性が戻ってきた。

 気になったのは、彼女が一人ではなかったことだ。

 隣には、若い男性がいる。いでたちは、受付の女性よりも少し豪華だ。

 ……誰だろうか?


 男でも見とれてしまうほどの容姿だ。

 ただ、目つきは鋭い。もっと表情を柔らかくすれば、多くの人を魅了するだろうが、今はただただ怖いという印象だ。


「……キミがフェイクくんだね?」


 表情に反して、声音は柔らかい。


「ああ」

「今日は何かしらの製作物は持ってきているか?」

「これでいいか?」


 俺は腰に下げていた剣を取り出し、彼の方へと向けた。

 シーレア魔鉄で製作した剣だ。


 鍛冶ギルドで申請を出すときに、製作物を見られることがあると聞いていたので用意していたものだ。

 今屋敷内にある剣では一番のものだ。

 男性は俺の剣を鞘から抜くと、目を大きく見開いた。


「……なるほど。腕はかなりのもののようだ」

「ありがとう」


 誰かは分からないが、褒められて悪い気はしない。

 剣を見ているときの男性は、表情も緩んでいる。

 初めに受けた印象と随分と違う。

 俺も同じように笑顔を浮かべていると、彼が思いだしたように口を開いた。


「説明が遅れたな。オレはこの鍛冶ギルドのリーダーを務めるイグレフだ。店に関しては商人ギルドと重なる部分はあるが、キミの申請に関してはしっかりと受諾した」


 彼はそういって剣をこちらへと渡してきた。

 この男性が鍛冶ギルドのリーダーか。

 俺より少し年上くらいで、ギルドのリーダーを務めるなんて凄いものだ。


「鍛冶ギルドに迷惑をかけないよう、頑張ろう」

「ああ。そうだな。それと、一つだけ確認させてくれ」


 そう言って、彼は俺が先ほど書いた紙をこちらに向けてきた。


「この鍛冶屋を購入予定なんだな?」


 そう言ってリーダーは店舗予定の住所欄を叩く。

 そこは、いわくつきのあの物件だ。

 指摘してきたイグレフさんの表情は険しい。


「そうだ。何か問題でも?」

「いや、まあ。大丈夫だとは思うが、鍛冶師の亡霊が出るとかなんとか言われていたからな。キミが払拭してくれることを期待している」

「もちろんだ」


 鍛冶師の亡霊、ねぇ。

 俺はどうしてもそれに対して疑惑的な気持ちを抱いてしまう。

 ゴースト種の魔物ならともかく、亡霊なんてものは人の幻覚なんじゃないかと思ってしまっている。

 ただ、これだけの立場の人が話しているということは、何か、はあるのかもしれない。


「鍛冶師の亡霊っていうのは、やっぱり持ち主だった伝説の鍛冶師であるベストルさんなのか?」


 だとしたらやはり、どんな心意気で鍛冶をしていたのか聞いてみたいものだ。


「かも、しれないね。鍛冶師の亡霊にまつわる話かはともかく、かつて伝説の鍛冶師が鍛冶の途中で亡くなったのも事実だ。一応、気をつけてくれ、とだけ言っておこう」

「忠告、ありがとう。意識しておくよ」

「それならいいんだ。それと、これが許可証になる。商売する場合、店のどこか見える場所に置いておくといい」


 イグレフさんのサインが入った許可証を受け取り、それをアイテムボックスへとしまった。

 これで、ここでの用事は済んだので俺たちは鍛冶ギルドを後にした。



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