表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/202

第10話

 俺の仕事は、店舗選びだけではない。

 それは、貴族についての勉強だ。

 俺はそういった知識がまったくないので、せめて最低限の対応ができるようにしておきたかった。


 今日は屋敷にある書庫で、勉強中だ。

 ……書庫、といっても本が乱雑にしまわれているだけの場所だ。

 有名な本などもあるらしいのだが、どこに何があるかはまったく把握されていない。


 いつか、掃除することも検討しているそうだが、膨大な量の本があるためまだ実行には至っていないそうだ。


 隣にはアリシアがいる。

 俺の方をじっと見ていた。

 さながら彼女は試験官といったところだ。

 さて、とりあえず試験開始だな。


 今は貴族として来客が来た場合の応対についての実践形式での練習をしていた。

 俺が気を引き締めなおしたところで、扉がノックされた。

 そのノックが終わったところで、俺は外の人物へと声をかけた。


「中へ入ってくれ」


 いつもよりは威圧的な声音を心掛けた。

 意識したのはゴーラル様だ。

 俺の声を聞いたことで、外で待機していたレフィが中へと入ってきた。


 レフィの設定は、俺のもとを訪れた貴族、ということになっている。

 レフィが丁寧に頭を下げてきた。


「お初にお目にかかります、フェイク様。本日はお会いできて光栄です」

「……あ、ああそうだな」


 ……俺がアリシアと結婚した場合、アリシアの婿としての立場になる。

 立場は非常に上となるため、基本的に貴族と対応する場合は俺が上、相手が下となるそうだ。

 貴族からすれば面白くないかもしれないが、そういう決まりなのだから守る必要がある。

 相手の反感を買う可能性はあるが、だからといって俺が下手に出てしまえばバーナスト家の立場に傷をつけることになる。


 俺はその後もレフィを貴族と見立てて接していき、練習は終わりとなる。

 俺から申し出た訓練とはいえ、何とも大変だった。

 試験官として見ていたアリシアが、腕を組んだ。


「まだまだ、なんだか不安そう」

「……そ、そうか?」

「もっと堂々としても問題ないと思う。レフィは何かある?」

「私もアリシア様と同じ意見ですね。特に、雰囲気ですね。もっとゴーラル様に近づける感じで大丈夫だと思いますよ。話していて、必死な感じが伝わってきてしまいますね」

 

 まだ必要なのか。

 思っていた以上に難しい。

 というか、元々俺は周りに頭を下げるような立場だった。

 数年はそんな生活をしていたため、もう染みついてしまっているのだ。

 これを改善するにはまだまだ時間がかかりそうだ。


「とりあえず、今後も話し方や態度については練習を重ねていきましょう。これはある程度練習していけばいくらでも誤魔化せますから」

「分かった。ありがとな」

「いえいえ。フェイク様がやる気なら、私はいくらでも協力しますよ」


 レフィはそう言って表情を緩める。頼もしい限りだ。


「それじゃあフェイク。ちょっと休憩挟もう」

「え? まだ大丈夫だぞ?」

「ううん。この前話していた例の鍛冶工房についての情報もある程度揃ったから。それを確認しながら休憩」

「……ああ、そういうことか」

「レフィ。それじゃあ資料持ってきてもらっていい?」

「はい、承知しました」


 レフィはぺこりと頭を下げ、部屋を退出した。

 俺は椅子の背もたれに体を預けるようにして、腰掛ける。

 レフィがテーブルに置いておいてくれたお茶を口にしていると、すぐにレフィが戻ってきた。


「お待たせしました。こちら資料になります」


 そういって彼女はテーブルに何枚かの紙を置いた。

 紙にはいわくのあった噂についてなどの調査結果が書かれていた。

 

「まずですが、兵士の何名かをあの家に泊めさせてもらい、数日様子を見てもらいました。その結果がこちらになります」


 一枚目の紙を指さしたレフィ。

 俺はその報告書を上から読んでいく。

 結果をいうのなら、


「特に、問題はなかった?」


 俺の代わりにアリシアが嬉しそうな声でそう言った。


「はい。まったくといっていいほど問題ありませんでした。兵士と一緒に鍛冶師を雇い、何度か泊まったり、中で鍛冶を行ってももらいましたが……まったく問題はありませんでしたね」


 確かにそれらについての報告書もあった。

 鍛冶師も兵士も、まったく問題ないと言ってくれている。

 レフィは次の紙をめくり、こちらを見てきた。


「そして、いわくについても調べてみました。幽霊を見るに関しては、先程の結果からとりあえず一度もなかったことは証明できましたが、もう一つですね。鍛冶師の頭がおかしくなって、鍛冶ができなくなったというものです」

「そういえば、そんな話もしていたな」

「こちらも詳細について調べてみました。今までにあの家を購入した人たちを調べ、彼らについての調査を行ってみましたが……元々頑固な人たちだったり、拘りが強い人だったようです。鍛冶ができなくなった、というのも少し疑わしい部分がありますね」


 レフィの調査結果を一つ一つ確認していく。

 まだ一週間ほどの調査ではあったが、確かにこれを見る限りでは特に問題はなさそうだった。


「大丈夫ってことでいいのか?」

「私は……問題ないと思います。一応こちらの結果については、ゴーラル様にも確認はしてもらっています。あとで詳しい話をすることになると思います」

「……分かった」

「とはいえ、まだあくまで数日での調査です。まだまだ発覚していない事実もあるかもしれませんから、油断はしない方がいいですね」


 それは、そうだな。

 たまたま、幽霊も気分が悪くて出てこなかっただけの可能性だってある。

 なんだ、幽霊の気分が悪いって。


 特に俺が気になっていたのは鍛冶師の頭がおかしくなってしまったという部分だったが、そもそも住んでいた鍛冶師にも何かしら問題があるようだった。

 俺が一番安堵していたのはそこだった。

 

 幽霊についての報告書部分を真剣に見ているアリシアへ、顔を向ける。


「レフィの報告書を見た感じ、購入しても問題なさそうだけど……どうだアリシア?」


 これでも、アリシアが嫌だというのなら、俺は別の物件にしようと思っていた。

 アリシアは首を縦に振った。


「これなら、問題ないと思う。お父さんにも相談してみて良かったら、ここにしたい。ここなら、フェイクのお店もきっとうまくいくから」

「アリシア……ありがとな」


 怖いと思っている部分もあるだろうに、前向きに検討してくれたアリシアに頬が緩んだ。

 ひとまず、この方向でゴーラル様とは話をしよう。


「レフィ、ありがとな」

「いえ、気になさらないでください。これが私の仕事ですから」


 レフィにも感謝を伝えた後、俺はしばらく報告書を眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] これは鍛冶なのか?
[一言] 目測やバランス感覚を狂わせる何かが有るんかね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ