第7話
アリシアとともに馬車へと乗り込み、そのまま帝国レバナンドを出た。
そのまま、レバナンドから南に位置する。ナーステイ王国へとついた。
そこから彼女の父が持つ領地まではそう遠くはない。
馬車で一日ほど旅をしていくと、アリシアの父が持つバーナスト領へとついた。
街へと到着し、領主邸へと移動した俺は、長い馬車の旅からようやく解放され、背筋を伸ばしていた。
「ここまで、長かったけど……疲れてない?」
アリシアが心配そうにこちらを見てきた。
「疲労はまあまったくないわけじゃないけど……全然問題ないな」
……毎日朝から晩まで休む間もなく仕事をさせられていたときと比較すれば、今の状況はどうってことはなかった。
素直に答えると、アリシアは微笑んだ。
「それなら良かった。……お父さんには連絡してあるんだ。だから、たぶんもう待っていると思う」
「了解だ」
緊張する。
偽装、という話だがそれはあくまで俺とアリシアの間でのことだ。
他の人たちに悟られてはいけない。
俺がそう考えていると、右手を柔らかな感触が包んだ。見れば、アリシアが手を繋いていた。
「て、手ぇ……つ、繋いでいった方が、その怪しまれないと思って」
確かに、そうだ。しかし……非常に恥ずかしい。
彼女は耳までも真っ赤にして、まるで初めての彼氏が出来た少女のような雰囲気をかもしだしている。
偽装の関係とはいえ、アリシアの演技は見事だった。
お、俺もアリシアを見習わなければならない。
アリシアに助けてもらった恩をこの場で返さねば。
俺はぎゅっとアリシアの手を握り返す。指と指を重ね合わせるように握ると、アリシアからひゃああ!? と声が上がった。
「わ、悪い! こ、このほうが誤魔化せると思って……!」
「だ、大丈夫……だよ……! い、いきなりで、驚いちゃっただけ、だから……」
確かに、事前に伝えるべきだったかもしれない。女性であるアリシアから触れるのは問題にならないことが多いが、男性から女性に触れるというのは何かと問題になりやすいことが多かった。
宮廷内でも「セクハラ」という言葉がはやっていたので、俺はそういったことには慎重になっていた。
アリシアからすれば妥協した偽装の婚約者。偽装の相手なのだから、同じようにセクハラされた、と思われてもおかしくはないのだ。
「悪かったよ、本当に」
このまま家から追い出されたらどうしようもなかった。俺がそう伝えると、アリシアは頬を赤くしながら口元をもにょもにょと動かした。
「……こ、こういうその、不意打ち気味なのも……わ、悪くないかも……だから、別に気にしなくていいよ?」
どういうことだ? 不意を突かれたほうが自然な演技が出来るということだろうか?
俺は首を傾げながら、屋敷へと入った。
アリシアの父親――ゴーラル様の部屋についた俺は、彼にじっと見られていた。
ゴーラル様の視線はたえず俺とアリシアの繋がっていた手にむけられていた。
「キミが、アリシアが認めた鍛冶師、か」
声は穏やかだ。だが、ゴーラル様の表情は一切変わらない。
ゴーラル様の言葉に、アリシアがこくりと頷いた。
「……彼の鍛冶の腕は確か。まずはエンチャントを見て、お父さん」
アリシアの言葉に、ゴーラル様は俺をじっと見てきた。
それから彼は机に置かれていた剣を、こちらへと放り投げてきた。
鞘に納まったままの剣は宙をまい、俺はそれを握りしめた。
「おまえにその剣のエンチャントをお願いしよう。今付与されているエンチャントをそのまま、修復してほしい」
……それは、試験なのだろう。
俺はこくりと頷いてから、その剣を鞘から抜いた。
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