第6話
俺たちは街中を並んで歩いていた。近くには兵士たちもいる。
兵士たちは俺たちの護衛を務めている。
というのも、今アリシアは顔を隠していないからだ。必然的に、街を歩けば注目を集める形だ。
店を持つようになれば、もうアリシアや俺の正体を隠す必要もなくなるからだ。
最初に行く店は、例のいわくつきの物件だ。
「それにしてもアリシアが幽霊苦手なんてな」
「に、苦手じゃない」
「それなら、大丈夫じゃないか」
俺が意地悪くそういうとアリシアは、頬を膨らませた後顔を伏せた。
「苦手じゃ……だ、ダメ?」
恥ずかしそうに声を絞り出したアリシアに、俺はくらりと眩暈を感じてしまう。
余りにも可愛すぎたからだ。
「……いや、全然別にいいけどさ」
「それなら、いいんだけど……フェイクはどうして大丈夫なの? なんだか、怖くない?」
「別に怖いって思ったことはないな。だって、見たことないから……いないもんだと思ってるし」
「私も見たことないからいるかもって考えちゃうんだよ……っ」
なるほど、そこでの違いがあったか。
彼女との差に驚いていると、アリシアが表情を険しくする。
「うぅ……フェイクの心は、いわくつき物件に惹かれてる……?」
その疑問には首を縦に振れる。
だって、一番条件が良かったんだからな。
「……そうだな。渡された資料を見た限りでは、やっぱり一番良くないか? アリシアも、いわくつきって聞くまでは乗り気だっただろ?」
「確かに、そうだったけど……やっぱり、幽霊が――」
そこなんだよな。どうにかしてアリシアも納得できればいいんだけど。
とりあえず、幽霊の危険がないと分かれば、彼女も乗り気になってくれるはずだ。
「なあ、レフィはどう思う? 幽霊の件は本当なのか?」
一緒についてきていたレフィに問いかける。
彼女は顎に手をやり、考えるような表情を浮かべた。
「そうですね。私も幽霊などは信じないのですが、その物件に関しては色々と悪い噂は聞いています。悪い噂が本当にすべて、否定されるまではわざわざ危険な物件に手を出すのはやめた方がいいかと思います」
一緒についてきていたレフィの言葉。
……悪い噂か。
「幽霊が出る以外にもあるのか?」
「はい。正確には覚えていませんでしたが、この幽霊を見た、住んでいた人の精神がおかしくなった、夜中に起きたら夜食が消えていたとか。まあ、大きなものから小さなものまで色々と聞きました。尾ひれがついてしまっている部分もあるとは思いますが」
夜食が消えていたのは誰かが勝手に食ったんじゃないか?
ただ、確かに何もない物件、ではないというのは確かなようだ。
そうこうしていると、俺たちは目的の物件前に着いていた。
早速店全体を眺める。
少し古びてはいるが、普通の外観だ。それに、その古さも悪い方向ではない。老舗、などと呼ばれるような迫力のあるものだ。
「ここで間違いないよな?」
「うん。初めてみたけど、禍々しい……」
いやそれ絶対事前情報に引っ張られてるだけだって。
俺はじっくりと見ていたけど、特に今のところ禍々しいとは感じなかった。
早速中に入って確認しようとしたが、隣にいたアリシアがぶるりと震えている。
「アリシア。……怖いならここで待っててもいいぞ?」
よく見れば体も震えているようだ。その姿はとても可愛らしいのだが、無理してついてこさせるわけにはいかない。
これで体調不良にでもなったら大変だ。
「だ、大丈夫……。い、いつでも行ける、よ?」
……本当だろうか? 不安だったが本人はついてくる気満々のようだ。
何かあったら彼女を最優先に行動しよう。
そう思いながら俺が扉へと向かい鍵を差そうとしたときだった。
中から音が聞こえた。




