第61話
あとがきにて、重大発表があります!
反射的に体がびくりとはねた。
いつもならば、次には思いきりぶたれていたことだろう。
モルガンがそのような行動に出なかったのは、彼も貴族だからだろう。
俺の立場が変化していることに驚きはあっても、理解はしているようだ。
しかし、俺は彼の怒鳴り声に昔を思い出して動悸が激しくなってきてしまう。
そんな俺の手をアリシアが握ってくれた。
……彼女の優しい温かさに包まれると、恐怖心は一気に消えてなくなった。
それから真っすぐにモルガンの目を見て、すっと頭を下げた。
「申し訳ありませんが、俺はもう宮廷には戻りません。アリシアの婿として、そして一鍛冶師として生きていきます」
「き、貴様……!」
モルガンはぷるぷると手を震わせていた。
そんな彼に、俺は続けて言葉を口にする。
「あなたが今どのような状況に置かれているかは分かりませんが……今さら、戻ってきてと言われてもあんな地獄のような空間には戻りたくありません」
「ど、どれだけオレたちが貴様の世話をしてやったと思っているんだ……っ!」
モルガンが顔を真っ赤に声を荒らげ、拳を振り上げてこようとする。
その瞬間、レフィがモルガンの手首をひねり上げた。
「き、貴様!? たかがメイドの分際で何をする!?」
「私のご主人様に危害を加えようとしましたので。彼は、公爵家の人間ですよ?」
レフィがそういうと、モルガンはぶるりと震えあがった。
モルガンは伯爵家の人間だったはずだ。隣国とはいえ、公爵家の人間に手を出すのはまずいだろう。
まだ、モルガンの中では俺が取るに足らないゴミのような鍛冶師という認識なのだろうが、ここにいるレフィとアリシアは俺を公爵家の一員として扱っている。
モルガンから力が抜け、膝をついた。レフィが手を離した時だった。
モルガンがすっと額を床にこすりつける。彼の両腕には不自然なほどに力がこもっている。
顔を上げた彼は、悔しさを必死に押し込んだような顔をしていた。
「……た、頼む! さ、さっきの発言は取り消そう! このままでは、騎士たちのエンチャントがまるで終わらないんだ! そ、それに騎士団長からも鍛冶師フェイクを連れ戻せと言われている! も、もしもこれらが不可能だと分かれば、オレは宮廷での立場を失ってしまうんだ! お、おまえだって公爵家の婿と、そして宮廷鍛冶師の肩書きがあれば最高だろう!?」
「それについては、私の父と相談しましたが、宮廷鍛冶師の立場は不要だと話していましたよ」
アリシアがニコリと微笑む。
彼女にばかり話をさせてもいられない。俺は決別の意味をこめて、彼に再度気持ちを伝えた。
「先ほども言いましたよね。俺はもう戻りません。この国がどうなろうとも、ましてやあなたがどうなろうとも関係ありませんから」
少なくとも、俺がいなかった時は対応できていたのだ。
昔に戻せば、十分に生活は送れるはずだ。
……まあ、上からの評価を得るため、仕事量を増やしたのもモルガンなのだが。
顔を上げたモルガンは顔を青ざめていた。
「た、頼むフェイク! 頼む! このままでは、オレは……!」
「……帰ってください」
俺がそういうと、レフィがモルガンの前に立つ。
「……これ以上、我が主を傷つけるというのであれば、上の者に相談させていただくことになりますが」
レフィがそういうとモルガンはぶるりと震えあがり、それから彼はとぼとぼと部屋を出ていった。
レフィも部屋を出て、入り口の扉を閉める。
アリシアと二人きりになったところで、俺はほっと安堵の息を吐いた。
膝から崩れ落ちそうになった俺はアリシアに優しく抱きしめられた。
そして、頭を撫でられる。
「大丈夫?」
「あ、ああ……大丈夫だから」
そんな子ども扱いをされているようで恥ずかしかったのだが、アリシアはぎゅっと抱きしめてきた。
「ダメ、今はこうさせて」
「……」
アリシアがじっと顔を覗きこんできて、にこりと微笑む。
……その笑顔を見て、俺は体に入っていた不自然な力も完全に抜け落ちた。
緊張していたし、恐怖もしていたようだ。情けないが、少しトラウマのようになっていたのだろう。
それでも、これで完璧に決別できた。
もう俺がこの宮廷に鍛冶師として戻ってくることはないだろう。
「……ありがとう、アリシア」
「うん、大好き」
「……俺も、大好きだ」
お互いに笑みをかわす。
……まだまだこの先大変なことはあるが。
……こんな可愛い恋人と一緒ならば、何でも乗り越えられるだろう。
この度、この作品の書籍化と決まりました!
レーベルはHJノベルス様になります!
書籍化に関してまだ詳細な部分は話せませんが、今後順次発表していきたいと思います!




