第6話
怯まなかった俺に、さすがにモルガンも驚いたようだ。
その顔が見れただけでも、こうして強気な態度を取った意味があったというものだ。
「おいおい。おまえ、鍛冶師以外の才能はあるのか?」
「別に、どうでもいいでしょう?」
「隠れて鍛冶を行っているのが発覚すれば、すぐに騎士を向かわせるからな?」
モルガンの言葉の後、取り巻きの一人が口を開いた。
「ま、出ていくのなら勝手にどうぞ。おまえみたいな無能、うち以外じゃ面倒見ることはないだろうけどな」
取り巻きがそういったところで、モルガンが頷いた。
「ああ、そうだそうだ。追放だ追放! おまえみたいな奴はうちには必要ない! さっさと出ていけこの無能が!」
「……はい、お世話になりました」
「言っておくが、おまえが辞めたんじゃないからな? こっちが追放してやったんだからな!」
モルガンたちは俺がここに戻ってくると思っているようだ。
……何があっても、ここにだけは戻るつもりはない。
俺は小さく首を振って、部屋を出た。
その時だった。廊下にアリシアが待っていた。
壁に背中を預けるように立っていた彼女は、まるで希代の芸術家が描いた絵画のように美しく、その場にたたずんでいた。
俺と目が合うと絵に命がこもったかのように動き出し、俺の前まで来た。
……今日、合流する予定ではあったがまさかここまで来ているとは思っていなかった。
先ほどの部屋での会話を聞かれた可能性がある。だとすれば、散々に俺が馬鹿にされていた声も届いているはずであり、俺は恥ずかしくなってきてしまった。
アリシアは大きな瞳を不安げに揺らし、こちらを覗き込んできた。
「話、終わったの?」
アリシアの声が廊下に響く。
鈴の音のように落ち着いた綺麗な声が、どうやらモルガンたちにも届いたようで彼らは慌てた様子で部屋から廊下へとやってきた。
……鍛冶課の人間たちは未婚の男性ばかりだ。
だから、鍛冶師の婚約者を探していたアリシアのことを狙っていた。
モルガンが丁寧な口調とともに一礼をアリシアに向けた。
「お、お久しぶりです。ますます美しくなられましたね、アリシア様」
「ありがとうございます。それでは、彼の仕事の件はもう良いでしょうか?」
アリシアがモルガンに対して丁寧に訊ねた。
さすがにモルガンは驚いたようだった。ちらと俺のほうを見てから、こくりと頷いた。
「え? えぇ、はい。元々大して才能がなかったので……我々もかなり指導してあげたんですけど、中々……」
先ほどまでは俺を脅していたにも関わらず、モルガンは打って変わった態度を見せた。
「そうですか。ちなみにですが、彼の次の職場は私の家になります」
「な!?」
驚いたようにモルガンを含め、鍛冶師たちが声を荒らげた。
信じられないものでも見るかのように俺とアリシアを交互に見ていた。
アリシアは笑顔をモルガンへと向け続けていた。
アリシアの笑顔は少し、怖い。威圧感があった。
「ど、どどどどういうことですか!?」
「彼は大した武器も作製できず、エンチャントの才能もないのですよ!?」
鍛冶課の人たちが声を張りあげる。
「私にとっては才能があるように見えました。この鍛冶課では不要といわれているようですので、私が引き取るのは構いませんよね?」
「そ、そんな……そ、それではどうですか? 彼よりも優秀であるオレなんて……」
モルガンがぴんっと背筋を伸ばした後、丁寧にお辞儀をする。
じっと考えるように顎に手を当てたアリシアは、満面の笑顔とともに口を開いた。
「必要ありません。それじゃあ、フェイク。行こう」
俺の手をぎゅっと握りしめてきたアリシアがそのまま歩き出す。
柔らかな彼女の手が俺の手に重ねられる。仄かな熱が伝わり、嬉しそうにほほ笑むアリシアの笑顔に胸をわしづかみにされてしまう。
……ああ、くそ。
アリシアにとって俺は偽装の婚約者だというのに――。
ますます好きになってしまいそうだ。
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