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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第一章

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第56話


 仕上げの作業に入った。

 ……すでにこれで五度ほど確認している。

 修復自体は完了していたが、万が一にも修復忘れがあったら大変だからと何度も確認している。


 今回も、特に異常は見られなかった。

 額の汗を拭い落した俺は、ゴーラル様との面会の時間を迎えたため、剣を持って部屋を出た。


 ゴーラル様の部屋に着くと、彼は待っていた。いつものように机に向かって手元の紙を見ている。

 その顔がすっと上がり、俺の方を見た。


 鋭い目だ。しかし、どこかいつもと違った期待感のようなものを感じられた。


「出来上がったのか?」

「はい。確認してください」


 俺は彼のほうに剣を差しだした。

 受け取ったゴーラル様は鞘から剣を抜いた。

 美しい刀身が部屋の光を反射させ、きらめいた。鞘から抜かれたその剣を見て、ゴーラル様の目の奥が細くなった。


「驚いたな。……父上から受け取った時と同じだな」

「それは光栄です」


 ゴーラル様はしばらく剣の表面を眺めた後、魔力を込めた。

 ……彼の額からじんわりと汗が浮かび上がっていた。

 魔力情報を読み取っているのだろう。


 そして、それが十秒ほど続いたところで、ゴーラル様は大きく息を吐いた。

 呼吸が乱れる。長時間息を止めていたかのような反応だった。


「……確認をした」


 ゴーラル様も魔力情報を見るまでは出来るようだ。だが、その先が出来なかったようだ。

 彼の言葉は震えていた。喜びに打ち震えているかのような声とともに、じんわりと頬を涙が伝う。


「確かに、完璧に……父上の剣だ。あの時、受け取った時と同じ……剣だ」

「……そうですか。良かったです」


 ほっと胸をなでおろす。ゴーラル様は頬を拭ってから、剣を鞘へとしまう。

 そして、にこりと柔らかく微笑んだ。


「フェイク」


 彼が名前を呼ぶ。俺がゴーラル様へと視線を向けると、彼は柔らかく微笑んだ。


「おまえをアリシアの婚約者と認めよう」


 予想もしていなかった言葉に、一瞬驚いた。

 まだまだ、認められるまで時間はかかるものだと思っていた。

 俺は感慨深い気持ちで一杯になり、彼にすっと頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 その際に、チクリと胸を刺す痛みがあった。

 その理由は明白だ。俺とアリシアは、偽装の婚約関係だったからだ。


 ここまでアリシアのことを考えてくれているゴーラル様に、悪い気がしていたんだ。

 ゴーラル様の笑みはすぐに消えた。いつもの公爵家当主の顔へと戻り、こちらを睨みつけてきた。


「アリシアを悲しませるようなことはするなよ」

「分かっております」

「アリシアは可愛い子だ。可愛いだろう?」

「はい、可愛いです」

「だからといって、情欲を爆発させるな」

「わ、分かっております」

「無理やりエッチなことしたら貴様の首をはねる」

「……もちろんで、ございます」

「合意ならば許そう」

「……あ、ありがとうございます」


 語尾に「?」をつけたくなるような状況だった。

 真剣な顔でそういったことを言うのはやめてくれないか? とても口には出せなかったが。


「それと、鍛冶も今後とも行うように。その腕が衰えることがないようにな」

「……はい。分かっております」

「また、今後は周囲にも気をつけろ。おまえが婚約者とわかれば、おまえを色々な意味で狙う奴も現れるだろう」


 命を狙われるとかだろう。また、もしも公爵家に婿入りしたとなればその部分に関係を作ろうとする輩も現れるはずだ。

 ……貴族としての振る舞いのすべては分かっていないため、色々と問題は出てくるだろうが、仕方ない。


「それじゃあ、アリシアに報告にでも行くといい」

「ありがとうございます。また、修復が必要であればお声かけください」

「ああ、分かった。その時は頼むよ」


 ゴーラル様に一礼を行い、俺は部屋を後にする。そのまま真っすぐにアリシアの部屋へと向かう。


 そして、アリシアと真剣に話をしないとな。

 偽装の婚約者についてを。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 前回、娘は、父には才能がない、と言ってたけど、 祖父程の才能はない、て意味だと、今回分かった事。
[良い点] アリシア忘れてそう
[一言] …そういえば、そういう「設定」だったなぁ(遠い目) ま、偽装と思ってるのは主人公だけ。だがな(笑)
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