第55話
次の日。今日の作業は自室で行う。
内容は昨日ゴーラル様から預かっていた剣の修復だ。
昨日同様に。
さすがに大変だ。魔力情報は一本の線のようになっているのだが、その細かな部分に傷があるような状況だ。
それを元の魔力情報を壊さないように修復を行っていく。魔力を込め、おかしな部分の調整を行っていく。
この剣はエイレア魔鉱石とエスレア魔鉱石をうまく組み合わせて作られたものだ。
そのため、刀身は非常に頑丈で、内部の魔力情報もイーレア魔鉱石とは比べ物にならない量を刻むことが出来る。
そのため、修復に関してもかなりの時間を必要とする。
これにエンチャントを施した者は、恐らく数日がかりでエンチャントを行っていったはずだ。
……一から書き直せと言われれば確かに大変だったが、修復ならばその限りではない。
何よりも凄いのは、この剣のエンチャントは十年ほど保っているということだな。
エイレア、エスレア魔鉱石を組み合わせた剣ならば、それほどのものが作りあげられるというのだろうか?
いつか俺も、そのような魔鉱石を使って鍛冶を行ってみたいものだ。そして、一から自分でエンチャントも施してみたい。
そんな武器が作れれば、きっと最高の一品になるだろう。
とはいえ、珍しい魔鉱石であるため、中々手に入らないんだよな。
市場で出回りやすいのはシーレア魔鉱石くらいまでだからな。
そんなことを考えながら、剣のプログラム修復を行っていく。
とりあえず、こんなところか?
俺は額の汗を拭ってから修復の終わった剣を見る。
午前一杯を使って、大方の修復は終わった。とりあえず一度休憩をとる予定だ。
午後に細かな部分の修復を終え、完成の予定だ。
部屋の扉がノックされる。
声をかけると、アリシアがひょっこりと姿を見せた。
「剣の修復終わった?」
「とりあえず大まかな部分は終わった。これから細かい部分をやっていく予定だな」
「……その剣」
アリシアはテーブルに置かれていた剣を見てぴたりと固まった。
朝食の際にアリシアには部屋にこもって剣の修復を行う、と伝えてはいた。
しかし、実物を見たわけではなかった。
この剣に何かあるのだろうか? ゴーラル様が大事にしているんだろうということは分かったが。
「どうした?」
「……それ、お父さんから依頼されたの?」
「ああ」
「……それ、お父さんのお父さん……つまり私のおじいちゃんが作った剣」
「え? ……おじいちゃん、か。その人は今は?」
「……亡くなった。十年くらい前に」
つまりこの剣は、ゴーラル様にとって大事な形見というわけか。
驚いた。それほどまでの品だとは思っていなかった。
「……なおさら頑張らないとな」
元々、ゴーラル様からの依頼なので本気で取り組むつもりではあったが、ますます中途半端には出来ない理由が出来たな。
「お父さん、おじいちゃんの剣の修復が出来なくて、よく……嘆いていた」
「嘆いていた?」
「お父さん、鍛冶師の才能はあんまりなかったから……だから、おじいちゃんが残してくれた剣の修復が出来ないんだって」
「……そうか」
ゴーラル様は俺の実力を認めていない中、それでも俺に依頼を出したのは……俺を試しているのだろう。
アリシアのためにも、この依頼絶対に達成しないといけないな。




