第54話
今日の稼ぎは312万ゴールドだった。
受注していた分もあるが、凄まじいものだな。
ゴーラル様の部屋についた俺は、早速今日の報告を行うことにした。
この報告について義務はないが、ゴーラル様へのアピールのようなものだ。
「ゴーラル様。本日の稼ぎは312万ゴールドになりました」
「調子が良いようだな」
「はい。行商人の方に発注してもらったものの納品があったからだと思います」
「……そうか」
話は以上だった。俺が一礼をして立ち去ろうとすると、
「待て、フェイク」
呼び止められ、俺は振り返る。
じっとこちらを見てきていたゴーラル様が、息を吐いた。
「……正直言って、驚いている」
「……え?」
「異国の地で、おまえのことを知る者が誰もいない状況から一ヵ月とかからずここまで物を捌けるようになるとは想像もしていなかった」
「それは、運が良かった部分もあります。今の収入の多くは行商人に依存している状況です。彼に見限られてしまうと、一気に収入が減ってしまいます」
「それはもちろんそうかもしれないが、稼ぎのすべてが行商人というわけでもないだろう?」
「そうですね。冒険者の方々に購入していただき、そこからさらに紹介していただくようにお願いしていますね」
今日買っていった冒険者たちにも、「良かったら友人に紹介してください」とは付け加えている。
イヴァス、ウェザーのように常連になってくれるかは分からないが、今後も広がっていってくれる可能性はあるだろう。
「おまえの鍛冶師の実力は、本物なのだろうな」
ゴーラル様がじっとこちらを見て、はっきりとそう言った。
……その言葉に、俺はすぐに頭を下げた。
「ありがとうございます」
「……お前に一つ、頼みたい事がある」
「なんでしょうか?」
「この剣の修復をお願いできないか?」
ゴーラル様はそういって、机の裏から一本の剣を取り出した。
俺の立ち位置からは見えなかったが、立てかけてあったのだろう。
「拝見します」
装飾の施されたその剣を受けとり、鞘から剣を抜く。
刀身自体は問題がない。となれば、彼の言いたい修復とはエンチャントのことだろうとすぐに理解する。
内部の魔力情報を見た時だった。眩暈がするような情報量に、一瞬くらりと来てしまった。
脳に直接大量の情報を叩き込まれたような感覚だ。
この現象は自分の能力以上の魔力情報を見るときに起こる現象だ。
……これは集中する必要がある。
俺は一度深呼吸をしてから、その剣の魔力情報を再度確認した。
書かれているプログラム自体は基本的なものだ。しかし、込められた魔力はもちろん、その量が莫大なこともあって先ほどのような眩暈が起きてしまった。
見れば、ところどころに不具合が発生してしまっている。この剣をこのまま使用すれば、いずれ壊れてしまうだろう。
「見えるのか?」
「はい、確認しました。ただ、これはさすがに今すぐに修復できるものではございませんね」
「……そうか。時間はどのくらいかかる?」
「明日までに完成させます」
「分かった。焦る必要はない。ゆっくりでも確実に修復を行ってほしい」
「分かりました。こちら、お預かりします」
「ああ」
俺はゴーラル様の剣を受け取って、一度頭を下げる。
「それでは、また明日同じ時間に完成した剣をお持ちします」
「さっきも言ったが、急ぐ必要はないからな」
もちろん分かっている。
この剣はゴーラル様にとって大切な剣であるのは理解できたので、丁寧に、確実に、そして迅速に彼の手元に戻したいと思った。




