第53話
改めて間近で見るとその美しい容姿に目を奪われる。
まるで芸術家のモデルにされるような人だ。
彼女はどこか小悪魔っぽさの感じられる笑みを浮かべ、こちらへと近づいてきた。
「私、アルメって言います。あなたが、フェイクさんですか?」
「はい、そうですよ」
「あはっ! そうなんですね! とっても、素晴らしい武器を作ってくれる方だと師匠から聞いていますよ!」
目を輝かせながら彼女は身を乗り出してくる。眼前で胸が揺れ、俺は頬がひきつった。
じっと、横に立つアリシアから睨まれている気がして、俺はすぐに鍛冶師としての仕事に移る。
「とりあえず、納品してほしいと言われていた武器と、こちらいくつか用意してあります。どうぞ選んで行ってください」
「はーい、分かりました」
リグに頼まれていた通り、質を少し落とした剣とナイフとともに納品予定の商品を並べていった。
アルメはじっとこちらを見てきて、鞘から剣を抜いては確認という作業を行っていく。
「この三つはいりません。こちら十本ずつ、頂きますね!」
……見事だな。
アルメは俺が混ぜておいた三つの品質を落としたロングソードとナイフをしっかりと見極め、それらを省いてみせた。
「分かりました。それでは予定通り、145万ゴールドでお願いします」
俺がそう言うと、アルメはじっとこちらを見てから、口元を緩めた。
「それなんですけどぉ……もう少し、安くなりませんかぁ?」
そういってアルメは机を挟んで座っていた俺の横へと回ってきて、体を寄せてくる。
僅かに左腕に彼女の胸が触れる。彼女の匂いと混ざり、くらくらと眩暈がしそうだった。
……色仕掛け、という奴か。
俺は仮面の奥の目が鋭くなっていくアリシアに頬がひきつる。
なめるなよ。
俺にはアリシアという好きな人がいる。もちろん、そのこういった感触が嫌いではないというのは嘘ではないが、彼女に幻滅されたらそれこそ俺にとっては死に直結するんだ。
俺は肩をとんと叩き、アルメの体を引きはがした。
「駄目ですよ。145万ゴールドです」
「……んもう、私の色仕掛けを無視するなんて良い度胸してますね。分かりましたよー」
アルメが残念がるようにそういって、お金をこちらに渡してきた。
確かに145万ゴールドだ。アイテムボックスへとしまい、彼女に剣を渡した。
大柄な男が持っていたアイテムボックスに剣とナイフをしまっていく。
「それにしても、とても良い腕をされていますね。これまではどこで仕事をされていたんですか?」
「ずっと北の帝国にいました。少し縁がありまして、こちらに移動してきたんです」
「なるほどなるほど。今後ももしかしたら長いお付き合いになるかもしれませんから、その時はよろしくお願いしますね」
彼女は投げキッスを残し、去っていった。
アルメ、か。
中々に手ごわい人だったな。
これでほとんど商品は売れてしまったな。残っていた剣とナイフを机に並べていると、アリシアが肩をつついてきた。
「……どうした?」
見ると仮面をつけているというのに、難しい表情をしているんだろうな、というのが一目瞭然だった。
「やっぱり、大きい方がいいの?」
「……いや、そんなことはないぞ」
「……目が釘付けだった」
「男ってのはほら、野生のオスは魔物を狩るだろ? 動くものに対して目が惹きつけられるのは仕方ないんだ」
「私は、動かないから目が惹きつけられないってこと……?」
「そ、そうじゃなくてだな」
アリシアは少ししょんぼりとした様子で自分の胸をじっと見ていた。
あ、アリシアだって控えめながら、ちゃんとある方だと思うけど。
……恥ずかしくてその言葉は口には出せなかったが。




