第51話
レベルトから剣を受け取った俺は、すぐに風魔法を生み出した。
風魔法を放ち、そこに剣を入れる。鋭い音をあげ、剣が加工されていく。
「……風魔法のレベルも高いね。すべての魔法が高水準だからこそ、より良い鍛冶が行えるんだね」
「……一応訓練積んでいたからな」
研ぎ終わった剣に、仕上げとしてエンチャントを施す。
エンチャントは基本的にはレベルトの持っていた剣を採用させてもらう。
しかし、部分的に問題もあったし、何よりエイレア魔鉱石用に加工する必要があった。
一気に魔力で文字を書き込んでいくのだが、それでも結構な時間がかかってしまう。
外を見れば、気づけば夜になっている。
書きあがったプログラムを確認し、魔力を剣に込めて軽く振ってみる。
問題はなさそうだ。
この作業をずっと見続けていたレベルトに剣を差しだした。
「どうだ?」
「……少し、振ってみるよ」
彼はそれから剣を振った。風を切る音が耳に心地良い。
次にレベルトは、魔力を込めて剣を振っていく。
彼の剣の軌跡が、薄暗い部屋の中で美しく見えた。
「……完璧だ。手によくなじむだけじゃない。魔力情報も丁寧に書き込まれすぎている。……僕が自力で修復できないくらい複雑なのが欠点なくらい、かな」
「それは悪かったよ。エイレア魔鉱石のおかげか、たぶん、一ヵ月か二か月くらいは修復の必要はないと思うが、何かあったらまた持ってきてくれ」
「……あ、ああ分かった。それじゃあ、報酬を方支払うよ」
そういって彼はこちらにアイテムボックスを差し出してきた。
俺はそれを受け取り、金を確認する。
「アイテムボックスごと受け取っていいよ。お金、結構な額になるしね」
「……え?」
エイレア魔鉱石の武器の相場は非常に高い。一本1000万ゴールドは覚悟した方がいいだろう。
しかし、今回に関して言えば素材はすべて持ち込んでもらっているからな。
加工の手間だけを考えれば、まあ技術者が少ないことからも300万ゴールドくらいだろう。
そう思ってアイテムボックスを開くと、中には500万ゴールドが入っていた。
「い、いやこれは多いって!」
「いやいや、良い技術者に出会ってお願いしたんだからこのくらいは当然さ。このエイレア魔鉱石の剣ならば、そこらの下手くそなエスレア魔鉱石の剣とも渡り合えるほどだからね」
「い、いやだからって……」
アイテムボックス含めてこれだと、かなりの価値となるんだが!
せめてアイテムボックスくらいは返そうと思ったのだが、彼はそれさえも断る。
「これからも鍛冶師としての付き合いを持ってほしいんだ。その前払いだと思ってくれないかな?」
ウインクして頼んできた彼の言葉に、俺は苦笑をもらした。
「後で返してくれって言っても、返さないからな?」
「そんなみみっちいことは言わないよ」
そういった後、彼はすっと礼をした。貴族らしい丁寧で綺麗な一礼だ。
「ありがとう。これほどの剣を作ってくれて。この剣に恥じぬ剣士となるよ。僕の力が必要な時はいつでも呼んでくれ。何かあれば、キミの力となろう」
「……ああ、分かったよ。ありがとな」
にこりとレベルトは微笑んだ。
……彼を満足させられるだけの剣を作れて良かった。
ほっと安堵の吐息を漏らした。




