第50話
出来上がった板に付着していた土を落とすため、風魔法で土を払い落とした。
それから板を金床へと移動させる。
手に小槌を持ち、板へと熱を込めた。
赤く光りだしたそれに小槌を叩き込む。いつものように、魔力情報を把握しながら、小槌でそれらを崩していく。
……二種類の魔鉱石、そして牙と爪の素材を組み合わせたせいで魔力情報はバラバラだ。
板金の外観だけで見れば、一つの塊になっているのだが、その中身は違う。
牙、爪、エイレア魔鉱石、ビーレア魔鉱石。それらすべてが独立してしまっている状況だ。
だから俺は、小槌で剣の形に整えつつ、それらの魔力情報を結んでいく。
破壊した後、結合させる、というのを繰り返し、一つの塊として完成させる。
その後は、破壊、再生の繰り返しによって魔力情報の補強へと入る。
これを繰り返し行うことで、より丈夫な剣となる。
それから俺は無言のままに小槌を振り続けた。
……ここまでの作業で一日が経過した。
俺は次の日も鍛冶工房へと向かった。
前日、宿を借りていたレベルトも俺の作業時間にはすでに鍛冶工房へと来ていた。
「よろしくね」
「……ああ」
レベルトの笑みにこくりと首肯を返す。
作業は昨日の続きからだ。
魔力情報の補強をさらに重ねて行っていく。
午前中にはその作業も終わった。
その作業を行いながら板を叩き、形を整えてきた。
今、俺の目の前に研がれていない剣があった。
最後に一度、俺は自分自身で確認作業を行う。
両刃の剣で大事なのは左右のバランスだ。
問題はなさそうだ。これで、剣の作製は終わりとなる。
次に作るのは柄部分となる。こちらは別に高レアな魔石ではなくとも問題ないので、イーレア魔鉱石で作らせてもらった。
作りあげた刃と柄を組み合わせる。
そして、剣を研ぐ前にレベルトの方へと剣を差しだした。
「レベルト、調整を行いたいから一度振ってみてくれないか?」
「……分かった」
彼はどこか緊張した様子で俺から剣を受け取った。握った瞬間、彼の目が見開かれる。
それから、彼は剣を振りぬいていく。
その見事な動きは、ドラゴンを討伐したと話しているだけはある綺麗なものだ。
このように、作りながら剣の状態を確認してもらうのが一番良い。
本当はイヴァスたちにもこの作業をしてもらいたかったのだが、俺の身分を明かすわけにはいかないからな……。
しばらくレベルトは剣を振っていたのだが、その顔は常に驚いたままだった。
「大丈夫か?」
彼が持っていた剣と寸分たがわず同じ重さ、同じ長さにしてある。
だから、剣としては問題ないと思うが……。
剣を振り終えた彼は、それからこちらへと剣を戻した。
「……驚いているよ。さっき使っていた剣とまったく同じじゃないか」
その声は、もはや呟きのようなものだった。まだ驚愕した様子でこちらを見てきていた。
「あ、ああ……ダメだったか? 同じものをと言われたからな」
「い、一度の鍛冶でここまで完全に同じものを作れるとは思っていなかったんだよ! キミのこの腕は、素晴らしすぎるものだよ」
そういって彼は興奮した様子とともに俺の両腕をガシッと掴んできた。
そして、頬ずりをしてくる。
「羨ましい! ここまで自由にできる鍛冶の才能があるなんて!」
「や、やめろ!」
俺は抱き着くようにくっついてきたレベルトの顔を突き放すように押した。




