第5話
「申し訳ございません。仕事を辞めさせてもらいたいのですが……」
「ああ!? てめ、何舐めたこと言っていやがる!」
月曜日になり、鍛冶課のトップであるモルガンに早速そう伝えたのだがやはりというか想像通りに怒鳴られてしまった。
いきなり辞められるとは思っていないので、とりあえずは辞めるための意思を伝えるところからなのだが、そこからすでに難航しそうだった。
モルガンの怒鳴り声に、鍛冶課内にいた他の鍛冶師たちも反応する。
モルガンを中心に皆が集まる。モルガンは仲間が集まってきたことでか、さらに態度を大きくした。
「てめぇ、今まで育ててもらった恩は忘れたのか!? ああ!?」
「そうだぞ! 貴様のような平民の面倒を見てやっているのは誰だと思っている!?」
「てめぇがまだ宮廷のマナーを何も知らない時に、散々指導してやっただろう!」
「ここを辞めてどうするつもりだ!? おまえみたいな無能、生きていけないだろうが!」
連続の罵倒に頭が痛い。確かに彼らには色々と教えてもらったこともあったのだが、だからといって現状の仕事に満足、納得できる理由付けにはならない。
ぶるりと体が震える。先ほどの言葉を取り消し、また元の生活に戻れば少なくとも彼らと口論をしなくて済む。
その道を選ぼうとする自分を叱りつけ、俺は毅然とした態度でモルガンを睨み返した。
……もう一年近くここで生活してすっかり弱気にさせられてしまったが、昨日アリシアと話したことで気合が戻っていた。
俺は強気に彼らを睨み、言い返した。
「だから、辞めさせてください。もうここでの仕事にはついていけません」
きっと睨み返すと、さすがにモルガンも眉間を寄せた。
俺に言い返されると思っていなかったのだろう。
「うちを辞めてどうするつもりだ? 就職先はもう決まっているのか」
「……はい」
さすがに、その就職先がどこであるかを伝えるつもりはなかった。
まさか、アリシア様の婚約者になりました、とはさすがに言えないだろう。
俺の言葉にモルガンたちの顔色が悪くなった。
それから、モルガンはにやりと口元に笑みを浮かべた。
「おまえの鍛冶師資格、見せてみろ」
「……はい、なんでしょうか?」
俺は左胸のポケットに入れていた鍛冶師資格を取り出し、モルガンへと手渡した。
次の瞬間だった。モルガンはそのカード状の資格を近くにいた男へと渡した。
そして、男は腰に下げていた小槌を掴み上げると、思い切り俺の資格へと叩きつけた。
バキッという悪意ある音が響き渡る。にやりとモルガンの口元が歪み、俺の眼前にパラパラと努力の結晶が舞い散った。
「貴様はこれで鍛冶師の資格は失った。さて、それで一体……どこに就職するのかね?」
モルガンに合わせ、彼の取り巻きが口角を吊り上げた。
「言っておくが、再発行も出来ないぞ? なんたって、鍛冶師資格の管理は我々の管轄なのだからな」
……ああ、それは存分に知っている。
つまりこれで、俺はこの国内で一切の鍛冶が行えなくなったのだ。
モルガンは俺の顔を馬鹿にしたような笑みで覗き込んでくる。
「鍛冶師資格を戻してほしかったら、これからもここに残って仕事を行うんだな。あと一年も雑用係をこなせば、新しい人間を入れておまえはこちら側に招待してやるさ」
彼らは、奴隷のような鍛冶師を用意してこき使いたいだけだ。
それはぶっちゃけてしまえば誰でもよいのだろう。だからこそ、俺が宮廷鍛冶師になれたんだ。
もしかしたら、一年間頑張れば彼らの言う通り俺も向こう側に行けるのかもしれない。
……だったら、なおさら、ここに残りたくはないと思えた。
彼らと同じように、弱い立場の人間を脅して使いたくはなかった。
「もう、俺は鍛冶師ではありませんので……これで失礼します」
俺は堂々とそう言い放った。
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