第49話
鍛冶をするにあたって、まず大事なのはレベルトがどのような剣を求めているかだ。
俺はちらと彼を見る。彼は今も腰に剣を下げている。
「レベルト、どのような剣を作ればいいんだ?」
「これと同じものを作ってくれないかな?」
そういってレベルトは剣を差しだしてきた。
その剣を俺は鞘から抜いた。彼の剣は部屋の明かりを反射し、きらりと輝いている。
丁寧に作られた剣だ。剣自体がしっかりとしているし、魔力情報は言わずもがなだ。
この剣でも十分すぎるほどの性能はあったが、レベルトはさらに上を目指しているようだ。
「ビーレア魔鉱石とシーレア魔鉱石を合わせた剣だな」
「そうなんだよ。せっかくドラゴンの素材とエイレア魔鉱石が手に入ったわけだから、この際もっと良い剣が欲しいと思ってね」
「この剣を作った鍛冶師にお願いしなくていいのか?」
「その鍛冶師、腕はいいんだけど……問題を起こしてしまってね。今は牢獄の中さ」
何をやらかしたんだろうか。
気にはなったが、今は関係ない。好奇心を抑え、俺は彼の剣をじっくりと観察する。
重さ、剣の長さ……それらを観察し、自分の中に叩き込んでいく。
「魔力情報に関しては俺が作りなおしてもいいのか?」
「今以上の剣になるならいくらでも。重さ、長さはそのくらいでお願いするってだけだよ」
「分かった」
レベルトも鍛冶師であるため、俺の言いたい事をすぐに理解してくれる。
……これだけ理解の早い弟子がいてくれれば、俺の作業を手伝ってもらえるんだけどな。
鍛冶を開始する。
まず、この魔鉱石を溶かして合わせる必要がある。
それを作るため土によって型を作った。
そこに熱で溶かしたエイレア魔鉱石を流し込んでいく。
そして、次にはビーレア魔鉱石を流し込んでいった。
それら二つが組み合わさっていくのを確認しながら、次の素材を手に取った。
ドラゴンの牙と爪だ。手に持つと、じんわりと熱のようなものを感じた。
……まるで、牙と爪の中に心臓でもあるような力強さがあった。
魔鉱石たちと同じように、ドラゴンの牙と爪を溶かすために熱を込めた。
……しかし、先ほどのように上手くはいかない。
加工が難しいのは承知の上だ。ドラゴンという種族が熱に強いため、魔鉱石を溶かすような熱では足りない。
俺は素材を握りしめ、さらに熱を込めていく。
……かなりの温度に到達したところで、ようやく溶け始めてきた。
驚いたような声がレベルトの方から上がった。
「……ドラゴンの素材は加工自体が難しくてね。キミくらいの鍛冶師でなければ出来ないんだよ」
……たしかに、加工自体が難しく、ドラゴンの素材を専門に捌く人間もいるくらいだった。
煮えたぎったままの魔鉱石の方へと手を向け、さらに牙と爪へと熱を込める。
どろり、と牙と爪が形を崩し、魔鉱石の液体へと流れ込んだ。溶け込み、混ざり合う。
一度これで、作りあげようか。
流し込んだそれらを、土で覆う。土を一気に冷やすと、じゅわっという音とともに板が完成した。
「これから、剣の形に整えていくが……まだ完成までしばらくかかると思うぞ?」
だから、レベルトにはどこかで休んでいてもいいという意味で伝えると、彼は首を横に振った。
その目は子どものように輝いていた。
「……これほどの鍛冶を目の前に出来るんだ。今後の参考にもしたいし、ぜひ最後まで見せてほしい」
そこまで言われたら断れない。
俺は彼に恥のないような鍛冶を行うため、一度深呼吸をして気合を入れなおした。




