第48話 モルガン視点
オレたち、鍛冶課の全員が集められていた。
呼び出したのは騎士団長様だ。
理由は簡単だ。
「おまえたちは、全員才能がない」
……いきなりの発言に、オレたちは顔を見合わせる。
さすがに、オレたちにもプライドというものがある。相手がいくら騎士団長様だからといって、その言葉をうのみにはできない。
「何を言っているんですか?」
「オレたちは、全員宮廷鍛冶師ですよ?」
そういって騎士団長様を睨みつけていく。オレだって同じだ。
彼はたいして見る目がないというのに、自分が見る目のある人間だと思っている。
それから、分かっていてオレたちをいじめるためにわざと、納品した剣を送り返してきているんだ。
騎士団長様は大きくため息を吐いてから、オレたちを見渡すように視線を動かした。
「オレはただ、フェイクという鍛冶師に自分の剣を見てもらおうと思っただけで……そもそも別の部署のお前たちについてまでとやかく言うつもりはない。結果が出ているのならな」
そう言ってから騎士団長様は声を張りあげた。
「しかし、だ! いざ、色々と調べてみたら……出るわ出るわ、おまえたちの悪事がな! 騎士団への納品にあんなふざけたものを送り込んでくるとは、良い度胸をしているな貴様ら!」
張りあげた声には魔力が乗っていた。その迫力だけで、数人が気を失ってしまったほどだ。
オレも意識が跳びかけたが、どうにか耐えきることが出来た。
……騎士団長様は本気で怒られている。
「これまでに、フェイク以外にもやめた鍛冶師がたくさんいたそうだな! すべて、入って一年以内の話だ。フェイクでさえ、一年半でやめている! これだけ早期退職者が多いのは、本人ばかりが原因ではない!」
……早期退職は確かにこの課は多い。
騎士団長様が言うように、これまでにもほぼ全員すぐにやめている。最速は三日だ。
しかし、それは最近の若者の根性が足りないだけではないだろうか?
「鍛冶課の内情を教えてもらった! 鍛冶長を筆頭に、いじめが横行しているそうだな! モルガン! 貴様に言っているんだ!」
騎士団長様がこちらへときて、オレの胸倉をつかみ上げてくる。あまりの迫力に、涙が出てきてしまう。
「い、いじめではありません! 訓練です!」
「フェイクの作業量を聞いたぞ! これまで毎週のように騎士団へのエンチャントを行ってくれていたそうだな! 毎日毎日、朝から晩まで、泊りこんでまで! そして休日さえも休めず仕事をしていたようだな! これの何が訓練だ! おまえには拷問官の才能の方があるんじゃないか!?」
「ち、違います!」
「黙れ!」
オレは頬を殴られた。
い、痛い! これまで殴られたことがなかったオレは、その想定外の痛みを訴えるように、騎士団長様を睨んだ。
「こんな、暴力……良いと思っているのですか!?」
「貴様のせいで、我々はこれまでに貴重な鍛冶師を何人も失ってきたんだ! そんな痛み、大したことはないだろうが!」
騎士団長様がこちらを見下ろしてくる。今にも剣を抜きそうなほどの迫力に、オレはガタガタと震えることしかできない。
「……とにかく、フェイクに戻ってきてもらう必要がある。フェイクだけではない。これまでに失った鍛冶師たちを呼ぶ必要がある」
騎士団長様はオレの頬を鷲掴みにしてきた。頬骨がミシミシとなるほどの力。悲鳴を上げたくても、抑えられてしまってまともに話すことは出来ない。
「貴様が原因で、全員を失った。土下座でもなんでもいい、謝罪をして貴様が全員を連れ戻せ。それと、自分の口から伝えろ。『オレはもう、鍛冶長をクビになります。今まであなた方をいじめていた全員もクビにします。ですから戻ってきてください』とな!」
「な、なななな! オレがクビ!?」
オレの体を突き飛ばすように彼は手を離した。
オレは急いで呼吸を整えながら、騎士団長様へと叫んだ。
「当たり前だ!」
「……そ、そんな! そ、それに土下座だなんて! そんなの嫌です!」
「言っておくが、戻せないのならばここでクビだ。家のほうにも今回の一件は伝えてある。家から名前を消しておくそうだ」
「そんな!」
宮廷鍛冶師でもなく、さらに伯爵家でもなくなってしまったら――もう生きていく術がない!
騎士団長様はしかし、オレを睨むだけだ。
「もしも、鍛冶師すべてを連れ戻せれば、騎士にくらいは籍を残してやる。もちろん、厳しい訓練についてこれればの話だがな。とにかくだ。至急、鍛冶師たちを集めろ!」
オレは今にも泣きたかったが、それでも必死に首を縦に振った。
な、なんでオレがこんな目に遭っているんだ……っ!




