第43話 モルガン視点
別作品になりますが宣伝させてください!
不遇職鍛冶師だけど最強ですという作品の書籍三巻、そしてコミックス一巻が今月発売しました!
こちらはコミックス版の書影になります! 気になった方はぜひとも購入していただけると嬉しいです!
騎士団長様に呼ばれたオレは、エンチャントを頑張ったことを褒められるのだとばかりに思っていた。
しかし、騎士団長様の表情は険しかった。
「モルガン。いや、おまえだけではないな。おまえたち鍛冶課は何をしているんだ?」
騎士団長様が鍛冶課へとやってきたのはいいが、オレは部屋から連れ出され、騎士団長様と対面して話をしていた。
騎士団長様がじっとこちらを睨みつけてくる。その冷たいまなざしにオレは体が震えていた。
……なんだ。何が起きているんだ? まるでオレに対して怒りを向けているかのようだった。
この騎士団長様は最近この鍛冶課に足を運んでは何かといちゃもんをつけてくる。
こちらとしても、連日の過酷な労働に文句をつけたかったところだ。
「何をしている、とは何でしょうか? ……現在も我々は騎士の方々のために剣のエンチャントを行っております。あまりにも、騎士の方々からの交換が多いのでとても大変なんです。もう少し、丁寧に扱ってはいただけませんかね?」
ここ最近、騎士たちのせいでロクに休みが取れていないのだ。それでいて、今回のように訳の分からない呼び出しをされてはたまったものではなかった。
「一週間に一度程度にしたいと言い出したのは、そもそも鍛冶課からの提案だったはずだが? 確か半年ほど前だったか?」
騎士団長様の言葉にはっと、オレは昔の自分の発言を思い出す。
あのとき、プレゼンテーションをしたのだった。
フェイクが宮廷入りし、ある程度仕事に慣れてきたところで彼にすべての仕事を押し付けた。
全員で話し、もっと苦しめてやろうと今の体制へと変わっていったのだ。
案外フェイクは仕事を簡単にこなしていた。だから、気に食わなかったため、騎士たちからの仕事が増えるように交渉したのだ。
月に一度だったエンチャントを、週に一度に切り替えた。
より強力なエンチャントを施せるという話をして、その代わりエンチャントの効果時間が短くなるという話をしてな。
より強力なエンチャントも行えるため、騎士たちからの評価も上がり、その結果を生み出したオレの給料もあがったのだった。
もちろん、フェイクの給料は据え置きだったが。
「そ、それは……」
「まあいい。今回おまえを呼び出したのは、納品された剣に問題があったからだ」
「な、なんでしょうか?」
出来が良すぎたとかだろうか? これまでずっとフェイクの剣と比べてきたんだ。
前回、オレはたまたま騎士団長様のお眼鏡にかなわなかったようだが、宮廷鍛冶師たちは皆フェイクよりも才能がある。
だからこそ、過ちに気づき謝罪でもしにきたのかもしれない。だったら、素直にその言葉を受け取ろうか。
「あんな、クソみたいなものを納品するのは今後、一切やめてほしい」
「……は?」
く、クソだと?
「これまで、納品されていた剣――恐らくだがフェイクがエンチャントしたものと思われる剣とは比べ物にならない。そこで、ふとした疑問が浮かんだのだが、まさかあの大量の剣すべて……フェイク一人にエンチャントさせていたのではないだろうな?」
騎士団長様の目つきが鋭くなる。そ、そんなことはどうでもいい。
「……ちょ、ちょっと待ってください。クソみたいなものを納品とはなんでしょうか?」
「おまえたちの納品した剣だ。あれはすべて、使い物にならない。エンチャントをやり直してもらいたい」
「そ、そんな! こっちは休み返上で作業をしているのですよ!? そんな暇ありませんよ! そこまでするのなら、給料を増や――」
「それと、次もあの程度の質のものしか納品できないのなら、給料に関しても考え直してもらう予定だ」
「ちょ、ちょっと待――!」
「……おまえたちだけではどうやら修復はできそうにないからな。一応、残っていたフェイクがエンチャントしてくれた剣も運んできた。それを参考にしながら行ってくれ。それでは」
「フェイクのエンチャント!? あれはあまりにも質が悪すぎてみることもできませんよ!」
オレがそう叫ぶと、騎士団長様は驚いたように振り返る。
「……オレでさえ多少は見ることが出来たんだぞ? まさかおまえ――」
その馬鹿にされた目が苛立つ。オレを誰だと思っているんだ!
だから無知な彼に、教えてやることにした。
「知っていますか騎士団長様。魔力情報というのは一定の才能がないとみることが出来ないんですよ。そして、あまりにも雑で汚い魔力情報を見ることはできないんです。我々全員、フェイクのものを見ることはできません。だって、彼のはあまりにもお粗末で、見ようとすると気分が悪くなってきてしまいますからね」
「……全員、だと?」
「はい、全員です」
「……ここにいる鍛冶課の人間は、全員コネでなっただけの役立たず、とでもいうのか?」
「……」
イラだった。確かに、オレを含め全員がコネで宮廷鍛冶師にはなった。
しかし、それでもそれなりに才能はあるほうだ。ただの平民と比較されとやかく言われるような落ちこぼれではなかった。
騎士団長様は額に手をあて、それから大きく息を吐いた。
「分かった。……いや、もういい。出来る限り、少しでも使えるエンチャントを行ってくれれば、な」
騎士団長様は興味をすっかり失ったような目を我々に向け、それから部屋を去っていった。
……な、なんて横暴な人間なんだ。
こちらに一方的に要求ばかりをしてきて……! 全員で頑張って仕事をしているというのに、それを否定してくるとは!
あれが騎士団長とは、この国も終わりなのかもしれない。
……良かったな。あんな男のお抱えの鍛冶師になんてなっていたらオレの人生真っ逆さまだっただろう。
静かになった部屋で、オレはぼけっと椅子の背もたれに体を預けた。
今も、作業室では同僚たちが死んだ目で作業をしているのだろう。
とりあえず……少しサボってから作業室へと戻ろうか。
・ブックマーク
・評価「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」
をしていただきますととても嬉しいです!
新連載になります。↓ 下のリンクから読んでみてください!
世界最高の精霊術師 ~双子だからと虐げられていた私は、実は精霊たちに溺愛されていたようです。私を追放してしまった家は……後悔してももう遅いです~
https://ncode.syosetu.com/n8840gp/




