第35話
「……そ、それってロリコ――」
「ロリコンではないよ! 年齢はもっと何十でもいいさ。ただ、見た目がもっとこう幼い女性が好きなだけなのさ! 昔はアリシア様はかなり好みだったけれど、もうずいぶんと成長してしまってね……昔ほどの熱意はないというわけさ」
「……な、なるほど」
それを言われた俺はどんな顔で、どんな反応をすればいいんだ?
深刻そうにレベルトは吐息を漏らしていたが、俺は何も言えずにいた。
「せめてアリシア様があと二十センチ小さくて、胸がもっと小さければ……。まあ、アリシア様の場合は胸のサイズはギリギリ合格点な気もするけど」
「……」
アリシアを廊下に出して正解だ。この前、胸のサイズについて少し悩んでいるようなことも言っていたからな……。
アリシアがいないことにほっと胸をなでおろしたのは束の間、レベルトはやれやれと言った様子で額に手を当てた。
「それにね。僕は子爵家の器にとどまるような男じゃないよ。これからもっともっと戦果をあげてさらに上を目指そうと思っているんだよ」
「……そうですか」
つまり、アリシアを狙っていないということでいいのか。
「そういうわけでだよ。僕はアリシア様に関しては家のこともあるから表面上は欲しいと思っているけれど、あくまで表面上だよ。僕は鍛冶なんかしているよりは外で魔物を狩っているほうが好きなんだ」
「……そうですか」
「そこで、だ。キミにはぜひとも頑張ってほしい」
とん、と彼が俺の肩を叩いてきた。
相手は貴族で、どこまでが本当なのか分からないが、レベルトの言っていることに嘘はないように思えた。
「このことはアリシア様にも内緒にしておいてくれないかな?」
人差し指を口元につけた彼は、ウインクをしてくる。
「……ああ、分かった」
「そうかい。それで、この剣は一ついくらなんだい? 少し使ってみたいんだけど……」
次の市に向け、より鍛錬した剣たちだ。以前よりも持ち手部分などに装飾を凝らしているため、前よりも見た目からして雰囲気が変わった剣たちだ。
以前、イヴァスに売却したものよりも数ランクは上の剣となっている。
値段としては5~8万ゴールドくらいで売りたいと考えていた。
「そうですね……8万ゴールドくらいを想定しています」
「ほう、なるほどね。よし、買った」
……おお、マジか。結構いい値段だけど、さすが貴族様だ。
一発オーケーした彼が8万ゴールドを財布から取り出した。財布、といってもアイテムが一定量はいるというアイテムボックスだった。
さすが貴族様だ。
剣を渡したところで、レベルトが俺の肩を叩いてきた。
「そういうわけで、さっきの話は二人の秘密ということで」
「……はい、分かりました」
「それと、今度もしかしたら素材を持ち込んで武器の作製依頼をするかもしれないから、その時は対応してくれると嬉しいんだけど……」
「分かりました、お待ちしています」
「おお! そうかそうか! それじゃあ、キミもそう堅苦しくしないでくれよ。未来の婿様なんだ。むしろ僕が敬意を払って接するべきなんだからね」
とんとんと肩を組んでくる。……この人、想定よりもずっと接しやすい人だ。
「……いや、でも」
俺が否定しようとするとレベルトは寂しそうな顔をする。……捨てられた犬のようにしょんぼりとしてしまった彼に、俺は仕方なく言葉をつづけた。
「分かったよ、レベルト。これからよろしくな」
「ああ、よろしくね!」
とたんに嬉しそうに笑うと、彼は廊下へとつながる扉へと向かう。
「アリシア様。お話終わりました」
扉を開け、レベルトがアリシアに声をかけた。アリシアはレベルトの腰を見てすぐに気づいたようだ。
「剣が、欲しかったの?」
「ええ、彼はどうやらかなり腕の立つ鍛冶師のようですので、参考に一つの剣を頂こうかと思いまして」
にこりとレベルトは微笑んだ。
それから彼は俺の方へと視線を向けてきた。
「僕は負けるつもりはないよ、フェイク。アリシア様への愛は誰よりも強いからね」
「俺も……負けるつもりはない。アリシアを愛しているので」
レベルトにそう返すと、彼は好戦的な笑みを浮かべた後、外へと歩いていった。
レベルトが立ち去ったところで、アリシアを見ると彼女は頬を真っ赤にしていた。
「大丈夫かアリシア?」
「うえ……っ!? う、うん……大丈夫、だよ」
そうは言うが、アリシアは顔を真っ赤にしたままだ。
「他にも婚約者候補の方々はいるんだよな?」
「……うん」
……そうか。そうなると、今後も今回のような対応があるのかもしれない。
レベルトは話の分かる人だったが、今後も同じようにいくとは限らないだろう。
……アリシアのためにも頑張らないとな。
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