第34話
レベルトが屋敷にやってきた。俺は鍛冶工房からその様子を眺めていた。
屋敷の方にそれなりに豪華な馬車が止まり、屋敷の方へ爽やかな金髪の男性が入っていくのが見えた。
まあ、あとは向こうでうまくやるだろう。現婚約者の俺が下手に会ってしまうとレベルトを刺激する可能性があるということで、今日は鍛冶工房に引きこもることにした。
そのはず、だったのだが。
「キミが、アリシア様の婚約者候補の一人なんだね」
「……」
なぜこうなった。
いや、先ほど理由は聞いた。
レベルトが俺と一度話してみたいと言ったからだ。
俺の隣にはアリシアもいる。一応レベルトと会うためか、地味めなものであるがドレスを身に着けていた。
「はい、そうですね、初めまして、フェイクと申します」
「なるほど、僕はレベルト・アウドータだ。よろしく」
握手を交わすと、彼は俺の手をじっと見てきた。
「……何か、ありますか?」
「いや、良い手だ」
にぎにぎ、と触ってくる。俺は少し頬が引きつったが、叩き落とすわけにはいかなかった。
それからレベルトはちらとアリシアを見た。目が合うと、アリシアは少し困ったような表情で俺の服の裾を掴んできた。
守らなければならない。俺がアリシアとレベルトの間に入ると、レベルトはふっと口元を緩めた。
「キミは、彼女を愛しているのかい?」
突然の質問だ。ぎゅっと、アリシアが俺の服の裾を掴む力が強くなった。
見れば、耳まで真っ赤にしていた。
……俺も恥ずかしかったが、表情に出すわけにはいかない。俺たちの偽装の関係を悟られるわけにはいかなかった。
……それに、愛しているかはともかく――アリシアのことを俺は好きだった。
だから俺は……演技ではなく、本気の感情を彼に伝えた。
「……はい、愛していますよ」
照れくさかったが、ここで怯むわけにはいかない。はっきりと伝えると、レベルトは納得した様子で頷いた。
アリシアは顔を沈め、耳まで真っ赤にしたまま俺の服をぎゅぎゅぎゅー! と掴む。アリシアはこういう場面になれていないようだ。俺だってそうだが、アリシアがすっかり赤くなって喋れなくなってしまった以上、俺が対応しなければならない。
レベルトはアリシアの方に一礼をする。
「アリシア様。彼と一対一で話をさせてくれませんか?」
「……フェイク、大丈夫?」
心配そうにアリシアがこちらを見てきた。
一対一、か。少し不安はあったが、レベルトが何を話したいのか興味もあった。
「ああ、大丈夫だ。一度アリシアは廊下に出ていてくれ」
「う、うん……。何かあったらすぐに呼んでね」
アリシアはそう言い残し部屋を去る。
レベルトはちらと鍛冶工房へと視線を向けた。
「少し、こちらの品を見てもいいかな?」
次の市に向けて用意しておいた俺の商品をレベルトが指さした。
こくりと頷くと、彼はすぐに剣を掴んだ。鞘から剣を抜き、確認するように表と裏を見ていた。
「イーレア魔鉱石、かな? かなり質の良い剣だね」
「そうですね。イーレア魔鉱石を使って加工しています」
「……なるほど。確かにかなりの鍛冶の腕前だ。鍛冶はもちろん、仕上げのエンチャントも丁寧だね」
彼も鍛冶の才能があるからこそ、アリシアの婚約者候補となれたのだろう。
レベルトはしばらく剣を見ていたが、それを鞘にしまう。
「これから僕が話すことは独り言だと思って流してくれるといいよ」
「……どういうことですか?」
「他愛もない独り言さ」
そういって彼は今度は俺のナイフを手に持った。
「僕は別にたいして鍛冶が得意なわけでも、好きというわけでもなくてね。まあ、鍛冶師の中で見れば中の中くらいはあるかな? それで、貴族だからということで今ここにいるんだよ」
……レベルトは一方的にそういうと、ナイフを軽く手の中で遊ばせる。
手慣れた動きだ。
「僕はね、正直言ってアリシア様のことを特になんとも思っていないよ」
「え?」
「アリシア様はもちろん魅力的な女性さ。そして、可愛いよ……けどね。……興奮できないのさ」
「……どういう、ことですか?」
俺が問いかけると、レベルトはきっとこちらを見てきた。
「僕はね、もっと幼い女性が好きなのさ! アリシア様は確かに美少女だ。とても美しい! けれどね……成熟してしまっている!」
レベルトはさも当然のことのようにそう叫んだ。
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