第33話 騎士団長視点
「騎士団長」
「……なんだ?」
呼ばれたオレはすぐに騎士へと視線を向ける。
彼は物資などの管理を行っているのだが、その彼の眉間が険しいのだ。
「騎士団長……その、確認していただきたいのですが」
「……どうした?」
「こちら、今回騎士たちに支給されることになった剣たちなんです」
それは鍛冶課を急かしてエンチャントを行わせた剣たちだ。
ようやく、できたようだな。
ここ最近、まったくといっていいほど納品されなくなったせいで、最初に施されていたエンチャントが壊れ始めていた騎士剣が多くあった。
結果、出撃できる人員の削減を行ったりと、かなり手間がかかってしまったのだ。
「無事納品されたんだな」
オレがそう答えたが、騎士の表情は曇ったままだ。
「はい。ですが……その、あまりにも質が悪くて」
「……どういうことだ?」
騎士が鞘から剣を抜き、こちらへと向けて来た。
オレは少し警戒しながらその魔力情報の解析を始めた。
警戒している理由は簡単だ。魔力情報というのは自分の才能以上のものを読み取ろうとすると体調が悪くなったり、そもそも見えないことがあるのだ。
……まあ、その逆もあるんだがな。あまりにも雑すぎるものも見られないことがある。
だからこそ、警戒していたオレなのだが――その魔力情報を見て、目ん玉が飛び出るかと思った。
……な、なんだこれは!? まるで子どもの落書きではないか!
こんな質の剣を使ったら、内部から壊れてしまうぞ!
「こ、これの支給は行ったのか?」
「……い、いえ行っていません。粗悪品なのか、それとも質が良すぎるのか。迷ったため……」
そうだったな。生まれながらの才能が無ければ見るのは難しいし、さらには技術の差によっても正確な情報を見ることはできない。
だからこそ、鍛冶師の育成は難しく、優秀な人間はそれだけ貴重なのだ。
「これは粗悪品だ! エンチャントが原因でせっかくの剣が台無しだ」
エンチャントだけならば比較的簡単に修復が出来るが、一度破損してしまうと打ち直す必要がある。
数分かからず終わるエンチャントと、最低でも一時間近くかかる打ち直しでは時間的な部分で大きく違う。
「これはすべて、鍛冶課からの納品なんだな?」
「は、はい……」
「……まだ、質の良いエンチャントが施されたものは残っているのか?」
「……の、残ってはいます。僅かながら……ですが。この後の魔物討伐の遠征に使用できるほどの量はありませんね」
「……はぁ」
騎士の剣がないってどんなお笑いだ……。
「……ひとまず、個人で剣を所有している騎士への支給は一度止めるんだ。まったく剣を買う余裕のない新人騎士たちに今残っている剣を支給してくれ。それと、無茶な使い方をしないように伝えるのも忘れずにな」
「分かりました」
「オレは、フィガーさんのところに一度顔を出してくる。どうにか、エンチャントを少しでもお願い出来ないか、交渉してみる」
「分かりました」
フィガーさんとは、オレの剣を作ってくれた鍛冶師だ。
とても気難しい方であり、まずエンチャントだけの仕事なんて引き受けてはくれないだろうが……今は他に頼れる相手もいなかった。
とはいえ、フィガーさんへの交渉はそれを考えただけでため息が出てしまうほどだ。
これも、すべては鍛冶課の者たちの適当な仕事が原因だ。
あとで、状況の確認に行くとしよう。
「……それと、フェイクの足取りだな」
あのモルガンという男、まだ何か隠していることがありそうだった。
色々と調べてみる必要があるだろう。
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