第30話
「ゴーラル様、今回はロングソードが二本、ナイフが二本と合計七万五千ゴールド分売れました」
次の日の夜。
屋敷に戻ってきたゴーラル様に、俺は自分の市での成果について伝えた。
ゴーラル様は黙って机に向かっていたのだが、俺の金額について聞くとぴくりと耳を動かした。
「ほぉ、そうか。前よりは売れたようだな」
「ありがとうございます」
「褒めたわけではない。……その程度売れる鍛冶師はいくらでもいるからな。まだまだだ。その程度では娘はやれないからな……っ」
声に力がこもっていた。俺はこくりと頷いて、一礼をした。
「分かっております。それでは、本日は以上で――」
「待て、フェイク」
呼び止められるとは思っていなかった。振り返ると、ゴーラル様が難しい顔を浮かべていた。
「なんでしょうか?」
「明日、婚約者候補の一人であるレベルトという鍛冶師が来る。家は子爵だ。いずれ、子爵の座を継ぐことになるだろう」
「……はい」
婚約者候補の一人、か。
……アリシアはそういった人たちと結婚させられるのが嫌だと話していた。
しかし、明日来るのか。
俺の力不足が理由だな。
「レベルトは、野心の強い男だ」
「……はい」
「それでいて、性欲の強い男だ」
吹き出しそうになる。真顔で言わないでくれ。
「それが、どういうことですか?」
「オレの娘は可愛い」
「……は、はい」
何を言っているんだこの人は。もちろん、アリシアが可愛いのは認める。親の色眼鏡などではないのだろうというのも分かる。
だが、この場面でいきなりそんなことを言われると、こちらとしては驚いてしまう。言葉の意味を理解すると、笑ってしまいそうになるので本当にもう少し落ち着いてほしい。
「奴はアリシアを欲しいと言っていた。しかしだ。アリシアはレベルトが苦手だそうだ。かなりがつがつと来る男だからな」
「……なるほど」
確かにアリシアはそう言った人が苦手そうだった。あくまで俺のイメージでの話ではあるが。
「とはいえ、レベルトを無下に断るわけにもいかない。まだ、彼は婚約者候補なのだからな」
……俺の鍛冶師の腕がゴーラル様の求める域になければ、レベルトだって候補として浮上するだろう。
「オレも心配している。誠実からは少し離れた男だからな。オレの可愛い可愛いアリシアを悲しませないとも限らない。その点に関しては、お前の方が信用できる」
そんなに女遊びに慣れていないように見えるだろうか?
「ありがとうございます」
「オレは、おまえのことをまだ認めてはいない。しかし、娘が喜び、なおかつオレの願いもかなえられる結婚をと考えている」
「……はい」
良い父だ。貴族という家のことも考えなければならない難しい立場でありながら、それでもしっかりとアリシアのことを考えてあげている。
……いや、親バカなだけな気もするが、アリシアにとって悪い父親ではないだろう。
「分かりました、頑張ります」
「ああ、頑張るといい」
ちょっとばかり胸が痛む。
俺とアリシアの関係はあくまで偽装のものだからだ。
それでも、俺だってここで生きていくために鍛冶をするしかない。
ゴーラル様の部屋を後にした俺は、それから自室へと向かった。
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