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第3話


「……話して」

「い、いえなんでも――」

「話さないのなら、離さない」


 そういって、アリシア様はぎゅっと俺の体を掴んできた。色々と柔らかなものが当たっているっ。

 アリシア様が可愛らしく頬を膨らまし、こちらをじっと見てくる。


「な、なんでもないんです。涙はその、目の汚れを落とすために出しました」

「普通の人は、泣かない」

「その鍛冶師は水魔法が得意ですから」

「話して」


 アリシア様がさらに体を寄せ、詰めてくる。

 ……俺は彼女の圧力に耐えきれず――情けないこれまでのことを話した。


 一度話し出すと、止まらなかった。これまで誰にも相談できなかったからだ。


 アリシア様は公爵家のご令嬢だ。


 そんな方にこんな愚痴のようなものをこぼしてしまっていいのか? 失礼ではないか? という考えが頭の片隅に浮かんでいたのだが、話し出したら止まらなくなってしまった。


「俺が、悪いんです。俺に才能がないから。みんな、俺を鍛えるためだって――」

「そんなのおかしいよ」


 はっきりとそういったアリシア様が、俺の体を抱きしめて来た。

 そうして、彼女は俺の頭をゆっくりと撫でて来た。

 ……まるでそれに眠りの魔法でも込められているかのように、眠気が襲ってくる。


「ごめんね、気づいてあげられなくて」

「い、いえ……すみません。俺こそ自分勝手に話しすぎてしまって」


 アリシア様が優しく頭を撫でてくるものだから、また涙を流しそうになってしまう。

 今でも情けないというのに、これ以上情けない姿を見られたくはない。


 と、俺がそんなことを思っていた時だった。

 鍛冶課の扉が開け放たれた。


「おい! 無能鍛冶師! 今すぐにオレの剣にエンチャントを行いやがれ!!」


 怒鳴りつけるように作業室へと入ってきたのは、一人の騎士だ。

 名前はアルゴスだ。モルガンの知り合いらしく、たまに一緒になっていじめられていた。


 その勢いのままに入ってきた彼だったが、アリシア様を見て驚いたように目を見開いた。


「あ、アリシア様!? こ、来られていたのですね……!」


 ぺこぺこ、とアルゴスがアリシア様に頭を下げていた。

 彼のそんな様子など見たことなかったが、俺が知らないだけで上司に接する時の彼はこんな感じなのかもしれない。

 

 いつもならば拳の一発でも叩き込まれるものだったが、アリシア様がいたおかげでそれは免れたようだ。

 アリシア様はすっとアルゴスへと視線を向けた後、彼の剣を見た。


「フェイク、エンチャント行ってあげて」

「え? は、はい……失礼します」


 俺はアルゴスに一礼をして、彼から剣を受け取る。

 それから彼の剣を鞘から抜いて状態を確かめる。


 ……かなり無茶な使い方をしたのだろう。

 アルゴスの剣は二日ほど前にエンチャントを行ったのだが、すでに壊れかけてしまっている。


「アルゴス様。あまり魔力を込めすぎないよう、気を付けてください。かなりエンチャントの状況が悪くなってしまっています」

「そいつはてめぇの才能がねぇからだろ!? ……じゃなくて、もうちょっと強固なエンチャントはできねぇのかよ?」


 アリシア様の手前、いつもよりは穏やかな口調だった。


「かなり強固にしています。ですが、アルゴス様たち一般の騎士に支給されている剣はあまり素材が良くありません。エンチャントにも限界があります。ですから、無茶な戦闘を繰り返せばエンチャントが壊れてしまいます。お気をつけください」


 いつもなら、うるせぇ! と殴られるがアリシア様効果か、そういったことはなかった。


 エンチャントの修復を行い、剣を返した。

 アルゴスは気に食わなそうに俺を一瞥してから、アリシア様に一礼をした。


「どうですかアリシア様? 少し宮廷内をお散歩でも……ご案内いたしますよ?」

「私は、大丈夫だから。騎士のお仕事、頑張ってください」


 にこり、とアリシア様は微笑み手を振る。

 アルゴスは再度礼をしてから、部屋を去っていった。

 そして、アリシア様の視線がこちらへと向く。


「……いつも、あんな感じでいじめられているの?」

「えーと……まあ」


 情けないところを見られてしまった。俺は小さく息を吐いてから、アリシア様を見た。


「……鍛冶師、やめたほうがいい」

「で、でも……俺みたいな才能ない奴じゃ他の場所で仕事が出来ないんだ。それに、鍛冶師の資格だって失っちゃうかもしれないし」


 もしもやめれば、鍛冶師資格を失う。そうなれば、この国内で鍛冶の一切が行えなくなる。


 そう伝えると、アリシア様がぎゅっと俺の手を握ってきた。


 柔らかな感触に、思わず頬が熱くなる。女性との関わりなんてほとんどなかった俺にとって、この刺激はあまりにも強すぎた。


 じっとアリシア様の顔を見ると、彼女の頬は僅かに赤らんでいた。その綺麗な瞳が俺の顔をじっと見て来た。


「そ、それなら……け、結婚しない?」

「結婚!?」


 予想もしていなかった言葉に、頭の中が一瞬空っぽになった。


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