第40話
だから、アリシアがそう感じられるというのも、俺の儀礼剣が正しく作れたと思うことにした。
「鞘は、どうするの?」
「そうだな……色々と考えているんだけど、煌びやかなもののほうがいいだろ?」
「……」
アリシアはしばらく剣を眺め、それから首を横に振った。
「フェイク。鞘はシンプルなものがいいかも」
「……どういうことだ?」
「この剣を抜いたときの感動って、このフェイクがいつも作っているシンプルな鞘だから生まれたのかもって思って」
「……なるほど」
そういう意見もあるのか。
シンプルな鞘から美しい剣が出てくるというのが、ギャップとしての効果を発揮するのかもしれない。
儀礼剣は目立つ必要もあるため、そういう考えも必要かもしれない。
「それなら、もう少しちゃんとしたシンプルな鞘を作ってみて、ゴーラル様にも見てもらおうか」
「うん。試してみよう」
アリシアの笑顔に、やる気をもらった俺は、それから早速いくつかの鞘を作っていった。
今日はウエディングドレスが運ばれてくる日だそうだ。
それだけ、結婚式の日が近づいたことでもある。
外の気温も随分と落ち着き、肌寒さを感じるほどだ。
運ばれてくるのはウエディングドレスだけではなく、俺のタキシードもそうだ。
ただまあ、やはり俺は自分の衣装よりもアリシアのウエディングドレスのほうが気になるというのが正直な気持ちだ。
アリシアのウエディング姿。どのようなものなのだろうか。
想像だけでも可愛らしい姿なので、本物を見たら俺は気絶するかもしれない……。
それら二つの品に関しては、本日リールナムから運ばれてくるらしい。
一緒にリガードさんもこちらに戻ってくるそうだ。結婚式に合わせ、事前にバーナスト領入りをしておくということだそうだ。
別にぎりぎりに来てもらってもよかったらしいが、リガードさんが無理やりこちらに来ると言い切った、とゴーラル様からは聞いている。
「恐らくだが、リームナルの仕事から逃げるためだろう」とは、ゴーラル様が言っていた。
否定できないところが、俺のリガードさんへの認識です。
ごめんなさい、と心中で謝罪はしておいた。
そろそろ到着するそうなので、俺たちは揃って外へと向かう。
しばらくして、門の外から数台の馬車が近づいてくるのが見えた。
屋敷の庭まで来たところで、リガードさんが真っ先に馬車から降りてきた。
凛とした表情とともに、颯爽と歩く姿は様になっているリガードさんはしばらく周囲へと視線をやってから、俺たちの方へと向かってきた。
「久しぶりだ。フェイク、アリシア……それに父上」
俺とアリシア、そしてゴーラル様の顔を見て、リガードさんは僅かに微笑んだ。
たくましく立派な姿に、この数か月の間に成長したのではという淡い希望を抱いたのは俺だけのようで、アリシアとゴーラル様の表情はあまり期待していないようだった。
「長旅だっただろう。ひとまずは中に入って休むといい」
「分かりました」
「それと、予定より、随分と早くに来たことについてもそこで聞こう」
「うひ……は、はい」
ゴーラル様の厳しい視線に、リガードさんは一瞬情けない表情を見せたがすぐに険しい顔へと戻す。
……あの一瞬ならば、近くにいた俺たち以外には気づかれていないだろう。
そして、やはり中身に特に変化というものはないようだ。
まあでも、リガードさんらしいといえばそうなんだけどさ。
「それじゃあ、オレはリガードと少し話をしている。レフィ、手はず通り頼む」
「かしこまりました」
ゴーラル様の言葉に、レフィがすっと頭を下げる。
リガードさんは助けを求めるような視線を俺たちに向けたが、俺たちも用事があるので苦笑を返すことしかできない。
そんな二人の後姿を見送ったところで、レフィがすっとこちらにやってきた。
「フェイク様とアリシア様は事前に話していた通り、一度着用していただくことになります。それから、細かな調整を行いましょう」
ウエディングドレスとタキシードをそれぞれ着用し、サイズなどの細かな部分の確認を行うのだ。
一応、俺もアリシアも事前に体のサイズを伝えている。
ただ、この数ヵ月で大きく太った痩せたとかいうこともないとは思うが、実際に着用してみると窮屈な部分などはある可能性があるため、一度着ることになっている。
ここで問題がなければそれで完成だが、問題があれば調整作業でまた時間が必要となる。
とはいえ、調整をしたとしても十分に本番まで余裕があるため、時間的には問題ないはずだ。
後は、本番までの間に太らないことだけを意識すればいいくらいだろうか。
俺とアリシアはそれぞれ別の部屋へと入る。
俺が自分の部屋へと入ると、すぐにタキシードを持ったメイドも入室してくる。




