第39話
剣ができあがっていき、最後はエンチャントの書き込みとなる。
今回は戦闘で使う剣ではないのだが、戦闘用と変わらないだけの剣を創り上げるつもりだ。
いや、そこらの剣を超えるだけの、立派な物を作り上げてみせる。
会場に見に来た人たちに、俺たちの想いが伝わるようにだ。
何より、俺が平民という立場を馬鹿にされないようにするために必要なことだ。
アリシアやゴーラル様、それにバーナスト家の人たちが馬鹿にされないためにもな。
色々な想いを込めながら、俺は魔力情報を把握していく。
エイレア魔鉄はそんな俺の思いに応えてくれたのか、エンチャントの容量もかなりある。
……これは、エンチャントのしがいがあるな。
それから丁寧にエンチャントを施していく。……最近の中では一番エンチャントできる容量があったために、結構な時間が経っていた。
できあがった剣を確認すると、まだうっすらと表面は熱を持っていたので、俺は水の塊を作り出し、そこに剣を差し込んで冷やした。
最後は、刃を研がないとな。
眼前に風の刃を生み出し、そこに儀礼剣を入れる。
最初は大まかに刃を研ぎ、途中から細かく作業を行っていく。
儀礼剣の表面を確認しながら、キリキリという音ともに儀礼剣を完成へと近づけていく。
研ぎ終わった儀礼剣を改めて確認する。
柄を握りしめた俺は、その剣から伝わる力強さを理解する。
……俺の求めていた剣のレベルに到達している。
これなら、儀礼剣として用いても問題ないだろう。
最後に俺はエンチャントを付与する。
内部にある魔力情報を再度強化していき、完成となる。
で、できた……。
完成と同時に、全身にどっと疲労感が襲ってくる。
今までとは使用していた魔鉄のランクも高いからか、かなり時間を使ったな。
近くの椅子に腰かけながら、深呼吸をする。
だけど、それだけ立派なものができたのも確かだ。
剣を握りしめ、何度か振ってみる。
……儀礼剣としてはもちろんだが、普通の剣としても問題ないほどのできだと思っている。
これが、俺にとって最高の一品であることは確かだ。
剣をじっと眺め、思わず口元が緩む。
磨き抜かれた剣身は、まるで宝石のように美しい。
その刃は、研ぎ澄まされていて、軽く触れただけでもあらゆるものを切り裂くだろう。
長さ、形。どちらをとってもこの剣は誰が見ても立派だと言わせられるだけの剣のはずだ。
これを実戦で扱うとなれば、かなりの実力者でなければ難しい。取扱いに困る、という点ではある意味魔剣のようなじゃじゃ馬さはあるかもしれない。
ただ、これで完成というわけではない。
儀礼剣は、剣本体も大事だが、鞘も大事だからな。
だからこそ、鞘には俺たちを祝福するような装飾を施す必要がある。
派手すぎても……それはそれで俺たちの関係とは少し違うよな。
簡素ながらも、儀礼剣であることが分かるようにしないとな。
色々と考えていたが、鞘についてはまだまとまらない。
……普段鞘は意識したことがないからなぁ。
いくつか試しに作ってみて、ゴーラル様やアリシアにも確認してもらうのがいいかもしれない。
とりあえず、近くにあった鞘に剣をしまっていると、鍛冶工房にアリシアがやってきた。
「アリシア、どうしたんだ?」
「今日、儀礼剣を作るって言っていたけど、進捗はどうかなって思って」
ちょうどいいタイミングだ。
俺はアリシアのほうに先ほど鞘にしまった剣を差し出した。
「さっき、作ったこれを儀礼剣にしようと思っているんだ」
「……見てみて、いい?」
「もちろんだ」
アリシアは俺から剣を受け取り、柄を握りしめる。
その表情が真剣なものに代わり、鞘からゆっくりと剣を抜いた。
「……綺麗」
第一声は、それだった。
しばらくアリシアの視線は、剣へと注がれている。
その表情は、緩やかなものになる。
「アリシア?」
「……この剣から、温かい気持ちが伝わってくる」
「……温かい気持ち?」
俺が握ったときは、もう少し違う感覚だった。
こう、覚悟を決めた……みたいな。そんな感じだ。
これから、アリシアを幸せにしていくんだ、という強い意志を込めて作ったからかもしれない。
「うん、なんだかフェイクと一緒にいるみたいに感じる」
「……そっか」
もしかしたら、アリシアと俺ではこの剣から感じるものは違うのかもしれない。
儀礼剣に関して、正解はないだろう。




