第37話
「ごめん。ちょっと色々難しく考えすぎてた」
「……そうなんだ?」
まだちょっと不服そうに頬を膨らませているアリシアに、俺の気持ちを伝えなければならない。
「ああ。俺は……アリシアを幸せにしたい。アリシアが俺と結婚してよかったって言えるように……なりたいと思ってる」
それが、俺がこの結婚でもっとも願っていることだと思う。
俺を選んでくれて、俺と結ばれて良かったと。
……そう言ってもらえるようになりたい。
それは、バーナスト家にとってではなく、アリシアにだ。
しかし、アリシアの頬が再び膨らんだ。
それから、人差し指で俺の頬をつついてきた。
「……私は、フェイクにも幸せになってほしい。私と結婚して良かったって、思ってもらいたい。……だから、アリシアを、じゃなくて……私たち二人を、だよ」
「……そう、だな。俺たち二人で、幸せになろう」
アリシアにこの結婚が幸せなものだったと言ってもらえるようになりたい。
それが、俺がこの結婚に対しての覚悟だ。
俺が改めてそういうと、アリシアはにこりと微笑んでくれた。
休日になり、リハーサルの日となった。
といっても、今日はあくまで台本を眺めながら会場の視察を行うのが目的だ。
俺とアリシアはともに会場へと向かい、中へと入った。
アリシアたちともに建物内へと入り、レフィが俺たちを先導していく。
「まず、こちらが衣装室になります。こちらがフェイク様で、こちらはアリシア様になりますね」
レフィが扉を開けながらそう解説してくれる。
レフィの後に続き、俺たちは衣装室の中へと入っていく。
衣装室は別段何か特別なものはないが、ここで俺とアリシアはそれぞれの部屋で、それぞれの正装に着替えることになる。
俺はタキシードで、アリシアは、ウエディングドレス、か。
まだ出来上がってはいないが、アリシアのウエディングドレスの姿を想像してみると……とても似合っていた。
いかん。
俺は自分の中の妄想を追い払い、呼吸を整える。
……妄想はここまでにしよう。
アリシアの姿は、本番の時の楽しみにすればいいだろう。
レフィが歩き出し、その後を追う。
「こちらで着替えましたら、この道を真っ直ぐに進み、こちらの大扉から会場へと入ります」
レフィが指差した右手側に顔を向けると、ちょうどついてきていた兵士たちが大扉を押しあける。
大きいな扉だ。力のある兵士たちでも開くのに苦労している。
一応、普段の出入りは隣に作られた小さな扉から行われるようだ。
そんなことを考えていると、大扉が完全に開いた。
「本番では、正装に身を包んだ兵士がこちらの扉を開け、そしてまずは新郎のフェイク様に入室していただきます」
レフィが説明にあわせ、中へと入っていく。
中は赤絨毯がまっすぐに敷かれている。
赤絨毯を中心に、左右にはベンチが等間隔で並んでいる。
「まずは赤絨毯を進んでいただき、左右のベンチに座る貴族の方に視線を合わせる程度で歩き進みます。そして、この台座がある場所まで歩いていただきますね」
レフィが足を止めたところには、台座があった。
それを指差しながら、レフィが言葉を続ける。
「こちらに、フェイク様が製作した儀礼剣をおきますね」
「……なるほど」
台座の周りを歩き、レフィは実際の場面を再現するように移動していく。
「こちらまで歩いていただいたところで、フェイク様には足を止めていただいて、アリシア様の入室を待ってください。アリシア様は、ゴーラル様とともに入室していただきます」
「うん、分かった」
「二人で入室してきていただいて、フェイク様の隣に並んでいただいたところで、こちらに立つ神父様を見ていただくことになりますね」
神父役としてか、レフィがそちら側にたち俺たちを見る。
「ここで、結婚に対しての宣誓をしていだき、それが終わったところで儀礼剣を二人で握りしめて掲げていただきますね。これで、こちらでの行動は終わりになります」
「……そうか」
話を聞く限りでは、そこまで大変なことはないようだ。
実際の場面では、動きに関してもある程度の指示は出るようだしな。
しかし、本番では貴族の方々が左右のベンチに座り、こちらを見ているはずだ。
……その状況を想像すると、物凄い重圧だろう。
大丈夫かな、俺。
当日アリシアや参加者に情けない姿を見せないようにしないとな……。
「すべてが終わった後は、馬車に移動して街中をぐるりと一周して再びこちらに戻ってきてパーティーに参加して終わりとなります。以上が大まかな流れになりますが、大丈夫でしょうか?」
実際にできるかどうかはともかく、流れ自体は理解した。
「俺は、大丈夫だ」
「私も」
アリシアも問題ないようだ。




