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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
最終章

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第36話




 夕食の後、俺もお風呂で一日の汗を流してから部屋にてくつろいでいた。

 しばらく休んでいると、部屋の扉がノックされた。

 恐らく、アリシアだろう。

 扉を開けると、予想通りアリシアがいた。後ろにはレフィもいて、飲み物の準備をしてくれている。


「お待たせ」

「こっちも、わざわざ夜に呼んで悪いな」

「ううん。暇だったから、全然大丈夫」


 笑顔とともにそういったアリシアが中へと入ってくる。

 俺たちが席に着くと、レフィが飲み物とお菓子を並べ、一礼とともに廊下へと出ていった。

 レフィが部屋を出て、扉が閉まり切ったのを見計らって、アリシアが口を開いた。


「それでどうしたの? わざわざフェイクが改まって呼ぶなんて珍しいよね」


 アリシアの問いかけに、俺はわずかに苦笑する。

 これから話す内容が少し照れ臭いことだったので、緊張するな。

 頬をかきながら、しかしこれは儀礼剣のためにも必要なことだったので、自身を奮い立たせるようにして口を開いた。


「アリシアと、結婚した後について話したことってなかっただろ? 色々聞いてみたいと思って、呼んだんだ」

「そういえば、そうだね」


 アリシアの頬が緩んだ。

 ……儀礼剣は俺だけではなくアリシアも握ることになる。

 だからこそ、アリシアはどのような考えを抱いているのか、その参考になればと思い聞きたかったのだ。


 ……アリシアはバーナスト家の令嬢だ。その彼女がこの結婚をどう考えているのか。貴族の結婚というのは、きっと俺が想像もできないほどの覚悟なり、考えなりがあるに違いない。


「フェイクはどうなの?」

「まだ、あんまり想像できないんだよな」

「想像?」

「……ああ。貴族の人を見たことはあったけど、その内側に入ったことはなかったからな。……バーナスト家のために、俺が一体どんなことができるのかってさ。だからまあ、結婚した後に何をすればいいんだろうってのはまだ想像できないんだ」


 もちろん、俺にできることは全力でやるし、俺の鍛治なら力になれる……と思う。

 自惚ではなく、自信を持って臨みたいと思っているが、やはり貴族の仕事というのは想像ができないので、未知に対する不安はある。


 そんな気持ちとともに顔を上げると――。

 ……上げると、なぜかアリシアは頬を膨らませていらっしゃる。


「あ、アリシア?」


 誰かに空気を送り込まれたわけではなく、どうにも怒っている様子のアリシアに、俺は困惑するしかない。


「……」


 アリシア、お、怒ってるよな?


「ど、どうしたんだ?」

「フェイクは、バーナストが好きなの?」


 不満げな表情から放たれた言葉は、そんな言葉だった。


「いや、そういうわけじゃないけど……どういう、意味だ?」


 本気で当惑している俺を見て、アリシアはむぅぅとさらに頬を膨らませる。

 一体、何が言いたいんだろうか?

 必死に考えてみるが、分からない。

 状況の変化に未だついていけずにいると、アリシアはゆっくりと頬の空気を吐き出すように語りだす。


「私は、フェイクと結婚して……毎日一緒にいたい。今みたいに鍛治を眺めて、お店に行って、仕事のお手伝いをして……領民や冒険者の人たちと関わって毎日を過ごしていきたい、かな。……それでゆくゆくは子どももほしくて……二人、くらいかな?」


 恥ずかしそうにしながらもアリシアは語っていく。

 ……彼女の語る話は、まさに結婚した後のことを想像しての楽しそうな未来だ。


「子どもができた後は子育てをして、男の子だったらフェイクみたいに何かに夢中になるのかなとか。女の子だったらちょっと私みたいに引っ込み思案なところもあるのかなとか……結婚したあとの私の考えていること、かな?」


 話し終えたアリシアは顔をかきながら微笑んだ。

 朱色に染まった頬から、今後の展望を語ることへの羞恥が伺える。


 だけど、俺はそれより何より気になることがあった。

 ……アリシアがぽつりぽつりと語り出した内容は、俺が考えていたこととは違う。


 聞きたかったことじゃない……わけではない。

 アリシアのおかげで、気づかされた。


 ……俺が難しく考えすぎていたんだ。

 俺はバーナスト家の人間としてふさわしいものにならなければならないと思っていたのだが……バーナストの前に考えなければならないことがあったんだ。


 俺はこれまでアリシアとの結婚=バーナスト家のアリシアにふさわしい男にならなければならないといけないと思っていた。


 もっと日常的なこと、か。

 俺は小さく息をはいてから、頬を叩いた。

 俺の行動にアリシアがきょとんとしていたが、俺はそんなアリシアの手を握りしめた。

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